フランドル楽派の頂点、ジョスカン・デ・プレ
15世紀の中頃から16世紀末にかけて約1世紀にわたって、フランドル(北フランスから南ベルギーにかけての地方)からは、オケゲム(Johannes Ockeghem)、オブレヒト(Jacob Obrecht)、ジョスカン・デ・プレ(Josquim des Pres)、イザーク(Heinrich Isaac)、ラッスス(Orlando di Lasso)のような優れた音楽家達が輩出し、この時期のヨーロッパ音楽の中心地であった。これらフランドル楽派の最大の特徴は、厳格な声楽ポリフォニー様式である。各声部は、それぞれ平等な扱いを受け、固有のリズム(テキストからくる散文リズムとも言うべき動き)を持って独立し、複雑に絡み合っていく。
フランドル楽派の音楽家達が作曲した曲種のうち、最も数の多いものは、ミサ、モテット、そしてフランス語のシャンソンの三つである。モテットは、従来テノールに旋律を置き他の声部で装飾していく形式の教会音楽であったが、ここでは各声部は全く対等となっている。また、それぞれ独立した声部を一つのモチーフによって統一し、模倣の手法で楽曲全体を構成していく、いわゆる通模倣様式もとられるようになってきた。
ジョスカン・デ・プレ(1440頃-1521)は、このフランドル楽派最大の、そしてルネッサンス音楽の代表者とも言うべき作曲家である。その活躍期は、レオナルド・ダ・ヴィンチやボッチチェルリらのそれと、ほぼ一致する。フランドルのフランス語圏に生まれ、若くしてイタリアに出て、ミラノ、ローマ、フェララなどで活躍し、またさらにフランス王ルイ12世の知遇もうけた。晩年は故郷フランドルに帰り、コンデの司祭としてフランドル総督オーストリアのマルガレーテの保護を受けた。彼の作品は、その在世中から多くの印刷楽譜によって全ヨーロッパに知られ、愛唱されていた。現存する作品は、18曲のミサ曲、約90曲のモテット、50曲以上のフランス語シャンソン等がある。いずれも、通模倣様式で織りなした、簡潔で均整の取れた書法で書かれたルネサンス様式の典型と言えるものである。
本日演奏するモテット「アヴェ・マリア Ave Maria」はグレゴリオ聖歌のセクエンツィアによった傑作とされている。また、「めでたし、いけにえのキリスト Ave Christe Immolate」も後輩たちの範とされ、16世紀のモテットの基本型となった作品である。何れも通模倣様式によって書かれ、各声部がそれぞれグループを作って対の模倣をかわしている。静と動が交錯しあい、また二声ずつの掛け合いから四声部全体で混然となって高まりをみせる、どれ一つとして無駄のない完璧な作曲法を見ることが出来る。聴くだけでなく、歌う立場からみても誠に楽しく、魅力的な曲である。今後はミサ曲なども取り上げてみたい。
(坂本尚史)
2002/01/20 10:48