ミサ「Pater Noster」について

合唱音楽、とくに中世からバロック時代にかけてのポリフォニー(多旋律)合唱曲を歌ったり聴いたりする人にとって、Giovanni Pierluigi da Palestrina(1525-1594)という名前のもつ意義は、私などが今更あらためて申し上げることではないでしょう。

しかし、といって、そのパレストリーナが作曲した、百を越すミサやその他の曲の一つ一つについて、我々がどれ程のことを知っているかというと、これはまた別のことのようです。

きょう聴いていただくミサ「Pater Noster」は、パレストリーナの没後に出版されたもので、ローマのシスティナ聖堂に残されていた、1618年づけのD.Brancadoreという人の手書きの写譜にもとづいています。

このミサは、古いグレゴリオ旋律「Pater Noster」(われらが法皇よ、という意味でしょうか)にもとづいて書かれています。この、全くなんでもない小さなメロディーが、彼の手にかかると何重にも対位法を駆使して精緻に組み上げられていって、まるで魔法のように、すばらしいポリフォニー音楽に化けています。音楽学者によると、この曲は、音の動きがしぶく、後期フランドル楽派のような感じだそうで、それ故パレストリーナの作品の中では初期のものと推定されています。私が同じパレストリーナの「ミサブレヴィス」のすぐあとでこれを歌ったときには、「しぶい」というよりも、むしろ、かげりのない宮廷風の優雅さを感じましたが、それは一つの独断と偏見なのでしょう。皆様は、きょうお聴きになって、どのように感じられるでしょうか。

本日の演奏は、Rudolf Ewerhart氏の校訂によるBreitkopf版の楽譜によることを附記します。

(田中勝彦)


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2002/01/20 10:44