ルネサンス器楽曲解説

今日古楽器といえば、一番ポピュラーなものが、このルネサンス音楽であろう。小学校の音楽の時間などに、リコーダー(ブロックフレーテ)のアンサンブルで、親しまれているものが多い。ウィリアム・バードや、パレストリーナそしてスザートなどである。ルネサンス期の器楽曲は、声楽曲に比べて、ホモフォニック(各声部が自立して、他の声部を模倣する多声「ポリフォニー」に対峙する言葉)な動きが目立つ。スザートなどの舞曲は、しばしばリコーダーアンサンブルで演奏されるが、今日は、ブロークンコンソート(複数の種類の楽器)の形で演奏する。5〜6人で10もの楽器をこなすのは、当時としては決して目新しいものではなかった。この編成にあとバスガンバとポンマーが加われば、屋外用、室内用、舞曲として、インターメッツォ(踊りが終わって、合間の音楽)として幅広く演奏できた。

今日の使用楽器を簡単に説明しよう。リコーダーにはクライネソプラニーノに始まってグレートバスまで、8種類以上もの大きさの違うファミリーがあるが、ここでは、ソプラニーノからバスまでの5種類のものを使う。リコーダーには、ルネサンスの木管楽器には珍しく入門書が出版されている。リコーダーを生み出したのはヴェネチアで、S.ガナッシの「入門曲集、フォンテガラ」がやはりヴェネチアで出版されている。ハムレットの第3幕第3場にもハムレットがまるで入門書の抜粋を読むような言葉がある。

「これらの指孔を指と親指で按じ、口で息を吹き込めば、それはもっとも雄弁に音楽を語るであろう。」

クルムホルンもそのファミリーは大小さまざまで、ここではアルトクルムホルンを使用する。曲がった(独語でクルム)笛という意味しかなく、フレンチホルンとは全く関係ない。キャップの中にオーボエのようなダブルリードが入っている。古典的な(パイプ)オルガンには必ずといっていいほどこのクルムホルンのストップ(音栓)が付いている。

リュートは、アンサンブルの中での単旋律の演奏、独奏、そしてチェンバロのようにソロの伴奏楽器として幅広く用いられる。またオーケストラの中でもしばしば通奏低音を受け持つ。当時リュートはもっとも人声に近いものとされていて、一番人気のある楽器の一つであった。リュート奏者がいないために、今日この甘い、酔うような音色をお聞かせできないのは、残念である。

ティバー・パイプは本来一人でティバー(ドラム)やタンブラン(振動弦付ドラム)などを叩きながら吹く笛である。すなわちドラムをつるした左手に、片手で吹ける(3孔)パイプを持ち、右手でドラムを叩く。これにはかなり特殊な技術を必要とした。パイプは笛の内孔が細くなっているのが重要で、これはオーバーブロウを容易にし、第5倍音まで出すことができる。基礎音階は、第2倍音から始まるので、たった3つの指孔で1オクターブ半の完全な全音階が出せる。1599年にエリザベス朝期の演奏家W.ケンプは、ロンドンからノルウィッチまでの道中行く先々で、ティバー・パイプを吹き鳴らしながらモーリスダンスを踊った、とある。

ハーディーガーディーは、かなり長い歴史を持つ。古くは10世紀ごろから教会や修道院でオルガンの代わりに用いられていた例もあり、「オルガニストルム」と呼ばれて、二人がかりで膝のうえに乗せて演奏された。その後次第に小型化され、肩から吊るして演奏されるにいたった。楽器は弦を弓で擦る代わりに、松脂を塗った円盤の板を回転させて音を出す。2オクターブの鍵盤は、箱の中で旋律弦だけを押さえる仕組みになっていて、その他の弦は、ちょうどバクパイプのようにドローン(持続低音)を響かせる。これによって、ハーディーガーディーは独特の性格を帯びることになった。このハーディーガーディーは、先のティバー・パイプとともに、今もフランスやスペイン、ポルトガルなどで、日常的に演奏されている。

(大谷文彦)


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2002/01/20 10:44