T.L.da ヴィクトリア ミサ「おお、大いなる神秘」
スペインではフラメンコをはじめとする独特の音楽、それも民衆を中心とする音楽が発展してきた。これは、中世の世俗音楽に通じるものがあり、トロバドゥールと呼ばれた中世の吟遊詩人によってはじめられた世俗音楽が民衆の間で広まっていた。13世紀のアルフォンソX世が編集したといわれる「聖母マリア頌歌集」には珠玉のような美しい曲(カンティガと呼ばれる)が残されている。
この伝統ある中世〜ルネサンス期のスペイン音楽の最大の、そして最後の巨匠と言われているのがヴィクトリア(1548頃〜1611)である。彼は16世紀の中頃スペイン中部で生まれ、ローマに留学した。ローマではコレジウム・ロマーヌムの楽長にもなっているが、その前任者はイタリアルネッサンスの最大の巨匠とも言われるパレストリーナであった。その後帰国した彼は、司祭、合唱長、オルガン奏者として活躍し、現存する限り18曲のミサ曲と100曲以上の宗教曲を残している。世俗曲は1曲もなく、徹底して教会音楽の道を歩んだ作曲家であった。本日演奏するミサ「おお、大いなる神秘」は、彼の作曲した同名のモテットの主題によるもので、キリエ、サンクトゥスのはじめの部分にモテットの主題の現れている。彼の活躍した時代はルネサンス音楽が咲き誇った終焉でもあった。この後、モンテヴェルディーらによって音楽は急速に初期バロック期へと進んでいくことになる。
(坂本尚史)
2002/01/20 10:48