J.S.バッハ:カンタータ第161番「来たれ、汝甘き死の時よ」
ヴァイマール宮廷の楽師長に任命されて以後、バッハには毎月一曲のカンタータの作曲と演奏が義務づけられるようになった。1715年10月6日、三位一体節後第16日曜日の礼拝で初演された第161番は、レチタティーヴォとダ・カーポ・アリアを持つオペラ風の構成である点で、第131番のような初期の作品とは大きく異なっている。当時歌詞に生じた大きな変化に影響されて、バッハも新しいタイプのカンタータを作曲するようになったのである。ザロモ・フランクによる歌詞は、キリストがナインの町で死者を蘇生させた物語をふまえて、死への憧れを述べたものであり、作品全体はコラール「心より願うは至福の死なり」の旋律によって統一されている。第1曲のアリアではオルガンによってこの旋律が奏されるが、ライプツィヒでの再演ではソプラノによって歌詞をつけて歌われていたという。第3曲のアリアの主題もコラール旋律に基づいている。そして第6曲では第4節の歌詞で合唱される。ところでこの旋律は、むしろ受難のコラールとしてよく知られているかもしれない。もとはハスラー作曲の「私の心は千々に乱れて」(1601年出版)という恋の歌であったものに、さまざまな宗教的な歌詞があてられて広く歌われたのである。この印象的な旋律はバッハの他のカンタータやクリスマス・オラトリオ、マタイ受難曲などでも用いられており、現代と同様に17、18世紀の人々の心を強く捉えたことがうかがえるだろう。
(本名洋子)
2002/01/20 10:48