J.S.バッハ:カンタータ第131番「深き淵より、主よ、われ汝に呼ばわる」
ミュールハウゼン市の教会のオルガニストに就任したバッハは、職務以外に教会用声楽曲の整備にも着手するようになった。詩篇第130篇を歌詞とするこの作品は、1707年5月の大火の後、6月に行われた悔悟の礼拝のために作曲されたものと考えられている。全体は合唱→独唱+コラール→合唱→独唱+コラール→合唱と、第3曲を中心に対称的に構成されており、彼の初期のカンタータの特徴を示している。さらに各曲の組み立てにも一貫性があり、第2、4曲ではバルトロメウス・リングヴァルト作のコラール「主、イエス・キリスト、至高の善」の詩節と独唱が組み合わされ、第1、3、5曲の合唱はいずれも荘重な導入部の後フーガに移る。このうち最も入念な第5曲のフーガ部分では、「もろもろの罪から贖う」という内容を象徴するかのような、徐々に上昇する音型による複数の主題が緊密に織られ、作品の終結にふさわしい、息もつかせぬような緊張感が生み出されている。
(本名洋子)
2002/01/20 10:48