パロック期の器楽曲

音楽の上でのバロック期は、合唱曲やオルガン曲といった教会音楽とともに、宮廷や上流市民の邸宅でさまざまな器楽曲が盛んに演奏された時代でもあった。本日はこれらの中から、バロック後期の作曲家であるテレマンとバッハの作品を演奏する。

テレマンは、バッハやヘンデルと同じ時代に活躍したドイツの作曲家である。「バロック後期にもっとも著名であった作曲家は、バッハでもヘンデルでもなく、テレマンであった」とよく言われるように、彼の音楽は軽快でウィットに富み、当時の裕福な市民層から大変に親しまれていた。今日からみると並外れた多作家であり、40曲のオペラ、12年分(600曲)以上の教会カンタータを残したといわれ、今日の古楽復興によりバロック音楽の重要なレパートリーになっている。本日演奏するトリオソナタ・ハ長調は、生前彼が一般の音楽愛好家のために刊行した「忠実な音楽の師」というドイツで最初の音楽ジャーナルからの一曲である。トリオソナタはバロック時代の最も重要な室内楽曲で3声部からなるソナタで、上2声部を受け持つ2つの旋律楽器(この曲ではリコーダー)、低音部を受け持つ楽器(ここではファゴット)、およびチェンバロまたはオルガンの和音楽器で演奏される。オーボエソナタ・ト短調は、当時の上流社会の生活をしのばせる題材としてあまりにも有名なターフェル・ムジーク(食卓の音楽)全3巻のうち、第3巻の第5曲に当たるものである。演奏楽器はバロックオーボエで、リコーダーと同じくいわゆる古楽器と呼ばれるものである。博物館にあるオルジナルのコピー楽器で、現代の楽器よりも約半音低いピッチ(A=415Hz)を持つ。また、この楽器は当時の独特の調律法によっているので3度や導音の音程が低いと感じるかもしれないが、それはむしろ唸りのない純正な音程なのである。今日は平均律で調律したチェンバロとモダンファゴットとのアンサンブルなので、少し違和感があるかもしれないがご容赦いただきたい。なお、ファゴットは変ト短調で、チェンバロは半音下げて(鍵盤を半音ずらす装置が施してある)演奏する。

バッハはバロック時代の最後を飾る、最も偉大な、今日最も良く知られた作曲家である。早くからオルガン奏者として知られるとともに、ライプチヒの聖トマス教会のカントルとして多くの宗教曲を作曲しており、我々も、彼の教会カンタータをここ数年連続して演奏してきた。本日は彼の代表的な器楽曲であるブランデンブルグ協奏曲から第4番を演奏する。6曲から成るブランデンブルグ協奏曲は、バッハが作曲したコンチェルトの頂点をなす傑作であり、同時にバロック協奏曲の総決算でもあった。これらはいずれもイタリア・パロックの産物である合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)のスタイルにドイツ風の骨組みが与えられている。さらに、各曲は異なった独奏楽器を用いて異なった様式で作曲され多彩な効果を生み出している。この第4番では独奏楽器としてヴァイオリンと2本のリコーダーが用いられている。なお、これらの協奏曲は1721年3月4日付けでブランデンブルグの領主ルードヴィヒ侯に捧げられたため、「ブランデンブルグ協奏曲」と呼ばれているが、実際にはバッハがケーテンのレオポルド侯に仕え、その器楽曲のほとんどを作曲したと言われている時代に当たる1718年から21年頃にかけて、ケーテンの宮廷楽団のために書いた作品をまとめたものであると考えられている。

(岩谷幹雄)


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2002/01/20 10:44