クリスマス合唱曲
プレトリウス(1571または1572/73−1621)はアイゼナハ近くで生まれ、北ドイツのブラウンシュヴァイク=ヴォルフェンビュッテル公ハインリヒ・ユリウスの宮廷オルガニスト・宮廷楽長をつとめた。また、シュッツの前任者としてドレスデンの宮廷で実質的な楽長の仕事を4年間つとめている。本日演奏するモテット「一人のみどりごがお生まれになった」は、1619年にヴォルフェンビュッテルで出版された宗教曲集<杖をもち、賛歌を歌うポリュヒュムニア Polyhymnia Caduceat rix et Panegyrica>の第12曲に当たり、中世以来歌われてきたクリスマスの歌に基づいて書かれたものである。ポリュヒュムニアというのは、ギリシャ神話の中に出てくる9人のミューズたちの一人で、賛歌の女神のことである。ここでは、この曲集の特徴である複合唱の意味を含んでいるのは確かで、これらの曲が演奏されたはずの、ドレスデンやハレ、あるいはヴォルフェンビュッテルの宮廷の人々に対する賛歌を示していると言われている。
シャルパンティエ(1635?−1704)は、パリに生まれローマでジャコモ・カリッシミのもとで学び、イタリア様式を身につけてパリに戻った。その後、ルイ14世のいとこに当たるギーズ侯爵夫人マリー・ド・ロレーヌに仕えた。また、それと並行して、イエズス会のサン・ルイ教会の楽長、フランス宮廷の礼拝堂に当たるサント・シャペルの楽長に就任している。本日演奏するオラトリオ「クリスマスの歌」は、正式な題名が「われらが主イエズス・キリストの誕生の歌(In Nativitatem Domini Nostri Jesu Christi Canticum)となっており、シャルパンティエの作品の中には同じ題名のものが4曲もある。さらにそのうち3曲はほぼ同じ歌詞によって作曲されている。本日演奏するのは年代順には2番目のもので、1683−85年頃に作曲され、おそらくギーズ侯爵邸で初演されたものと思われる。この作品はオラトリオと呼ぶにはいささか短いようにも感じられるが、オラトリオの祖として知られる恩師カリッシミのオラトリオを模範として作曲したもので、当時の様式を忠実に反映しているものといえる。曲の台本は、ルカによる福音書の第2章8〜16節に基づいている。冷たい冬の夜に、天使が羊飼いたちの前に現れるところから、羊飼いたちが厩に到着し、幼な児イエズスの誕生を祝って主を賛美するところまでが語られる。
(坂本尚史)
2002/01/20 10:44