パレストリーナ:ミサ「うたわん、シオンすくいの君を」

前述したように、パレストリーナは105曲のミサ曲を残している。ミサ曲はカトリック教会の礼拝(ミサ)で用いられる固有文(毎回のミサで決まって用いられる祈り)である、キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイに曲を付けたものであり、ルネッサンス期の代表的宗教曲である。パレストリーナのミサ曲にはルネサンス・ミサの構成法のすべてが動員されている。初期の作品は、フランドル風のテノールに定旋律を置き厳密にポリフォニックに展開していくもの(テノール、ミサ、定旋律・ミサ)が普通である。定旋律にはグレゴリオ聖歌や世俗シャンソンなどの旋律が用いられている。後期になるとパロディ・ミサ(もじりミサ)の形によるものが増大し、全体の約半数の52曲を占めている。パロディ・ミサはすでに存在するモテット、シャンソン、マドリガルなどをモデルとして借用し、テノール・ミサなどで借用された定旋律のみならず、対旋律、経過楽句、リズム型などあらゆる要素を借用して改作するのである。借用するモデルは自作の作品でも他人の作でも差し支えなく、むしろ師匠や先輩の作品を借用してミサ曲に改編ずくことは、それらの人々に対する最上の敬意の表現として、また技巧のさえを誇示する最良の手段として広く行われていたのである。本日演奏する作品は1582年に出版された曲集に含まれるもので、同名の自作の4声のモテットに基づくパロディ・ミサである。モテットと共に演奏することで、両者の関係が良く理解できるものと考えられる。


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2002/01/20 10:44