パレストリーナ「ミサ・ブレヴィス」
パレストリーナは音楽におけるルネサンスの後期、1525年頃の誕生といわれる。そもそもローマの近郊パレストリーナの町に生まれた人でジョヴァンニ・ピエルルイジが本名なのだが、現在は生地の地名で呼ばれている。わが国で言うと室町時代末期、奇しくも種子島への鉄砲伝来、フランシスコ・ザビエルによるキリスト教伝来などがほぼ同じ時期に当たる。
パレストリーナは児童合唱団員・オルガニスト・教会の音楽長と職業を変えながらも多くの作品を発表し続け、ヨーロッパ中に名声の鳴り響く作曲家になった。ミサ105曲、モテット約250曲、オフェルトリウム(奉納唱)68曲を含めて約900曲の作品を残している。まさにイタリア・ルネサンスを代表する名作曲家といえよう。
今回演奏する「ミサ・ブレヴィス」(小ミサ曲)は、パレストリーナらしい流麗な旋律の動きと、その中にも歌詞の内容やイントネーション・アクセントを生かし、それがポリフォニックな流れの中に収束していく美しさを感じることができる。
ミサ曲というのは、カトリック教会で行われる「ミサ」と呼ばれる礼拝で唱えられる言葉「ミサ通常文」に曲を付けたものである。ミサ曲といってもいろいろな作曲家の作品があり、ふだんあまりお聞きにならない方には区別がつきにくいかもしれないが、後の時代のもっと有名な作曲家たちのミサ曲に比べて、このパレストリーナ「ミサ・ブレヴィス」は、ミサ曲の中に本当の祈りを込められた時代の中でも、もっとも代表的で美しいものであり、しかも深い宗教性と気品を兼ね備えたものであると言ってよいだろう。第一曲「キリエ」はミサの中では初めの祈りの言葉である。第二曲「グローリア」は神の栄光をたたえる部分であり、もっとも華やかな旋律を与えられていることが多い。第三曲「クレド」は信者が自分の信仰を口に出して唱える箇所である。キリストの生涯が簡潔に歌の中でたどられる。途中、Et in carnatus estの部分はキリストの誕生が語られる部分であり、さらに十字架上での死の場面があって、Et resurrexitからは復活の場面となる。そして神の栄光をたたえるアーメン・コーラスが鳴り響き、壮大なクレドの終焉となる。第四曲「サンクトゥス」第五曲「ベネディクトゥス」は、教会でのミサの中では連続して演奏されるものである。「サンクトゥス」とは「サンキュー」と語源を同じくする感謝の言葉。「ベネディクトゥス」はバスを除く三部合唱で歌われ、静かな祈りである。第六曲「アーニュス・デイ1」は四声、第七曲「アーニュス・デイ2」はソプラノが二つに分かれた五声で書かれている。「平和の賛歌」と題されるこの歌は平和な世界が地上にあふれて終わっていく。最後の歌詞がpacem(平和)であることも象徴的である。
2002/01/20 10:48