歌と器楽によるルネサンス小曲集

ガリアルド(Galliard)
 この曲はシャンソンのステージで間奏曲として演奏した曲を、リズミックなアレンジに変えたものです。原曲については作者不詳ですが、おそらく16〜17世紀頃のルネサンス舞曲に由来していると考えられます。

スカボロフェア、マイ・ボニー・ボニー・ボーイ
 これらの曲はいずれも中世イギリスの古曲です。当時は自分が作った曲などに作者名を付けるというようなことはしなかったため、作曲者は不明です。おそらく当時、街から街へと旅していた吟遊詩人たち(中世イギリスではshaperと呼ばれていた)によって歌われていたと思われます。歌い継がれていくうちに曲のアレンジが変化したりしながら、現代まで伝わったのでしょう。特に「スカボローフェア」は、サイモンとガーファンクルによってアレンジされ、映画「卒業」の挿入歌として一世を風靡しました。

五月の訪れ、イントラーダ、朝の贈り物
 中世のドイツやオランダで当時の人々に親しまれていた曲を取り上げたものです。「五月の訪れ(Wohl kommt der Mai)」は1534年に出版されたドイツ歌曲集からの引用で、ゆったりとした歌曲部分とリズミカルな器楽合奏との対比が印象的な曲です。「イントラーダ(Intrada)」とは16〜17世紀頃の和声をともなった行進曲風の曲のことです。今回演奏する曲は大きく3つの部分で構成されています。最初はまるでパイプオルガンの演奏のように持続音が重なり合って進行するのに対し、後半では一転して舞曲のようなリズミカルな曲となり、最後の部分では交唱歌のように高音部と低音部が呼応するように演奏され曲を終えます。「朝の贈り物(Myn morghen ghof)」は、各パートのメロディーがフーガの様に重なり合いながら進行していくのが興味深い曲です。

ロンド・サルタレッロ(Rondo−Saltalello)
 フランドルの楽譜出版業者・作曲家であるT.スザート(1500?〜1562?)は、オータン(P.Haultin)の発明した活版印刷機を用いて器楽編曲と自作曲を出版したことで知られています。今回の「ロンド」と「サルタレッロ」は1551年に出版された「ダンスリー(Danserye)」のなかに収められている作品です。

ガリアルド(Galliard)「休日ばんざい」(Heigh ho holiday)」
 エリザベス朝黄金時代のイギリスの代表的作曲家でありリュート奏者でもあったアントニー・ホルボーン(1584?〜1562?)の作品で、「パヴァーヌ・ガリアルド・アルメインおよび短いエアー集(Pavans,
galliards,almains,and other short aeirs)1599年」に収められています。基本的に3拍子のガリアルドですが、前半の落ち着いた雰囲気と、後半の快活な部分の対比が素晴らしい曲です。

バス・ダンス(Basse danse)「ラ・ブロス(La Brosse)」
 P.アテニャン(1494?〜1552?)は、フランスで最初に活版印刷機を用いて楽譜出版を行なったことで名高く、パリで多数のシャンソン、宗教音楽、器楽曲などを出版するとともに、セルミジ、ジャヌカンらの人気作曲家の作品をほぼ独占的に刊行しました。今回演奏する「ラ・ブロス」つまり「ブラシ(刷毛)」を意味するバス・ダンスは、1530年に出版された「4声のための9つのバス・ダンス、2つのブランル、25のパヴァーヌ、15のガイヤール集(Neuf basse dances deux branles vingtet et cing pavennes
avec quinze gaillardes en musique a quatre parties)」に収められています。バス・ダンスは16世紀中頃までフランスの宮廷で人気を博した踊りであり、一般的には比較的ゆっくりとした2分の2拍子で、床から足を離すことなく踊られました。しかし「ラ・ブロス」は、一般的なバス・ダンスの曲とはやや異なり、2拍子のバス・ダンス部分に引き続いて、6拍子のサルタレッロが演奏され、そして最後にピヴァ(piva)と呼ばれる軽快な3拍子の曲が演奏されます。

<葛谷光隆>


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2002/01/20 10:44