J.S.バッハ作曲 「カンタータ第161番」

  バッハのヴァイマール時代である1716年9月27日の三位一体後第16主日に初演された、ザロモン・フランクの1715年にヴァイマールで出版された詩集「福音主義礼拝の捧げもの」に基づく、死について省察するカンタータである。この日の礼拝で朗読された福音書は聖句は「ルカによる福音書」第7章11〜17節で、その内容は、ナインという町で、イエスが死んだ若者を生き返らせる話である。

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 やもめの息子を生き返らせる
 それから間もなく、イエスはナインという町に行かれた。弟子達や大勢の群衆も一緒であった。イエスが町の門に近づかれると、ちょうど、ある母親の一人息子が死んで、棺が担ぎ出されるところだった。その母親はやもめであって、町の人が大勢そばに付き添っていた。主はこの母親を見て、憐れに思い、「もう泣かなくともよい」といわれた。そして、近づいて棺に手を触れられると、担いでいる人たちは立ち止まった。イエスは、「若者よ、あなたに言う。起きなさい」と言われた。すると、死人は起き上がってものを言い始めた。イエスは息子をその母親にお返しになった。人々は皆恐れを抱き、神を讃美して、「大預言者が我々の間に現れた」と言い、また、「神はその民に心にかけてくださった」と言った。イエスについてのこの話は、ユダヤの全土と周りの地方一帯に広まった。

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 全体を貫く核となるのは、クノル作のコラール『われ心よりこがれ望む(1611年)』である。終曲の単純コラール(リコーダーのオブリガート付き)に使われるほか、第1曲ではオルガンのセスクィアルテラ・ストップ(12度と17度の鳴る複合音栓)によって象徴的に引用されるほか(今回の演奏ではオーボエで代用)、アリアの器楽フレーズの基本的な構成要素としても見え隠れしている。なお、このコラール旋律はマタイ受難曲の中核をなす受難コラールとして知られているが、ここでは用いられている詞は受難とは全く関連がない。

<坂本尚史>


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2003/10/08 19:06