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録−ROKU− 
第三話「ライヴレコーディング」

otonosama

2006/01/21 13:35

ライヴレコーディング・・・観客の聴いている生の演奏を録音する事。いわゆる生録。

 ちょっと前の事になるが、マイクを購入した。オーストラリアのRODEというメーカーのコンデンサマイク、NT2000とNT4である。前者は大ヒットモデルNT2の後継機でモノラルマイク。当然ステレオ録音をしようと思えば二本必要となる。後者はステレオマイクで、外観に他のマイクには見られない特徴(一本のボディに二つの独立したマイクカプセルが90°クロスして取り付けられている)があり、なんとなく惹かれてしまった。これらを使って、新たに生録という趣味(泥沼ともいう)に足を踏み出してしまったわけで・・・。おそらくOPEにとって、というか、アマチュアの演奏を収録するには、特に前者は過ぎたマイクだと思われる。でもやはり、ひとつひとつの演奏会全てが一期一会のかけがえのないものであるから、できるかぎり原音に忠実に(いい所もそうでない所も)残したいという一心である。

 入口出口1.5倍の法則というのが昔読んだ雑誌に書いてあった。映像機器に関しての記述だったが、音響機器に関してもそれ以上にあてはまる法則である。昔、ブラウン管方式のテレビが大画面化、高画質化を推進していた頃、600本だの700本だのと水平解像度競争を展開していた時期があった。横方向の解像度(垂直解像度)はNTSC方式の規格によって525本に決められているから、縦方向の水平解像度を上げることによって画像の高精細化を目指したわけだ。ところが当時の映像機器の水平解像度はというと、それぞれおよそ

VHS・・・・・240本
地上波放送・・・330本
S−VHS・・・400本
LD・・・・・・420本
EDベータ・・・500本

 繋げる機器のスペックがこの数値なのに、なぜ700本もの水平解像度を持つ表示装置が必要なのか?答えは簡単。その方がキレイに映るからである。ちなみにテレビ局のモニター室で使われている業務用モニターテレビなどは900本を超えるスペックを持っている。

 仮に100の画質で録画できる性能を持つビデオに、100の画質の映像と150の画質の映像を記録してみる。まず間違いなく後者の方がキレイに記録される。またその記録された映像を100の画質で表示できるテレビモニターと150の画質で表示できるテレビモニターに映してみる。これまた後者の方がキレイに映る。高速道路をミゼットIIで走るのとターボ付きのジムニーで走るのと、同じ100キロで走ってもどちらが快適かということを想像すればわかりやすいであろう。つまり機器のポテンシャルを引き出すために、入力側も出力側も最低1.5倍、できるだけ余裕がある能力を持つ物を繋げるのがよい、というひとつの経験則だ。

 DATのポテンシャルはかなり高レベルなものなので、マイクの性能は出来る限り高い方がよい。かといって市販のクラシックCDの録音に使われたりする有名なホールの天井から吊ってあるようなマイクは、稼ぎがあまりよくない私においそれと手の出せる代物ではない。ヘタすりゃ半年分を超える給料がいっぺんに飛んでしまう。さらにコンデンサマイクというやつはスピーカーやヘッドホンと違って、少なくとも私の住んでいる近辺では実際に音を通して試聴する、という事ができない。また湿度に敏感だからであろう、店頭に展示してあるのを見掛けた記憶もない。買ってしまった後でなんじゃこりゃ?と思っても後の祭りである。その筋の雑誌にはいろんな評価や評論が載ってはいるが、やはり評論家もメシのタネに対してそうそう本音を吐露するわけにもいかず、無難な内容しか書かれていない。ここで私は少しの間途方に暮れる。しかし答えはすぐに見つかった。わからない事は知ってる人に教えてもらえばよいのだ。

『私はOPEという団体に参加していて、こういうジャンルの曲を毎年演奏しております。どなたか同じような音楽の演奏を同じような環境で録音している方がおられましたら、おすすめの機材を教えて下さい』という感じで某オーディオ雑誌に投稿してみた。程なく実際に生録をされている三人の親切な方々から連絡が入り、その内の二人が示し合わせたかのように、マイク:RODE NT2、DATデッキ:TASCAM DA−P1を薦めてくださった。

 実はポータブルのDATデッキ、TASCAMのDA−P1はその時点で既に購入済みだった。いつ買ったかは忘れてしまったが、初めてヨハネを聴きに上京した時に、私が13万強で買ったDA−P1が99800円で売られていたのを見掛けてヘコんだ覚えがあるので、少なくともそれよりは前の話である。コンデンサマイクには電源が必要で、ソニーの小型の物などは本体内蔵の乾電池や、録音機に繋げたプラグからの電源の供給によって作動しているわけだが、NT2にはバランスケーブルを介して電源を供給してやらなければならない。業務用録音機であるDA−P1はその電源(ファンタム電源という)を搭載しているので、最小限の機器構成で録音に臨めるというのがオススメの大きな理由であった。そして、マイクを買ったのはアドバイスを受けてから随分経った後だったので、その間にNT2はNT2000へと進化していた。モノラルマイク2本のセッティンクが難しい場合もあるかもしれないので、ステレオマイクのNT4も同時に購入した。

 さて、OPEにおける私の生録デビューは2004年のオータムコンサートである。場所は岡山市の西ふれあいセンター。ここはキャパは小さいが実によい音が鳴るホールで、客席の左右の壁が扇状に弧を描いており、残響が巧みに処理されている感じであった。もしここのホールで音楽を聴く機会があったら、オススメは中央付近ではなく、左右の壁際近くである。ただ、いくら音がよくても、ステージから離れた壁際にマイクをセットするわけにはいかないので、ステージのまん前の中央にNT4を、その左右にNT2000をマイクスタンドに取り付けてセットする。実はこのNT2000、かなり重い。女性がダンベルとして使えるほどの重量がある。カンタンに考えていたが、スタンドにセットするだけでも割と時間がかかる作業であった。

 どちらのマイクで録るか最後まで迷って、ギリギリまでNT4一本で録るつもりだったのだが、リハーサルの録音を再生してみて、レベルメーターのピークマージンにはまだ余裕があったのに、タンバリンと鈴の音がささくれ立って聞こえた。こういう音がこのマイクは苦手なのか、私のセッティングと調整がまずかった(多分こっちが正解)のかはわからないが。そこで最終的に、能力に余裕があると思われるNT2000で収録をした。結果、タンバリンの音も鈴の音もバッチリである。

 どのくらいバッチリかというのは、「The Complete Works of O.P.E.」の特典ディスクその@、2004オータムコンサートを(まだ完成してないんですけど)聴いていただきたい。もちろんオータムコンサート単体のCDのコピー用マスターは器楽パートリーダーに渡してあるので、そちらからの入手も可能である。

 いくつか反省点を挙げれば、ステージの下にマイクをセットした事と、マイクの距離を離しすぎた事の二点。音の波というのは下から上に昇っていく性質を持つので、音源よりも高い位置からマイクを下に向けて音を狙うのが正しい。同じ理由でホールで音楽を聴く時は、音源より耳の位置が高くなる場所で聴くのがよい。マイク間の距離については、小編成の演奏だったのでそれほど気にならないが、ヘッドホンでよーく聴くと少しだけ中抜けしている感じがする。おそらくそれがわかるような再生環境で普段音楽を聴いている人は、メンバーの中にもほとんどいないとは思うが。

 その反省点を踏まえて、第20回記念演奏会クリスマス・オラトリオでは、ステージ上にNT2000を二本、バーンと立ててやった。ソリスト的(特に衣装が華やかな女性陣)にはマイクスタンドとケーブルがかなり鬱陶しかったと思うが、指揮者には感謝された。ケーブルを固定するテープが目印となり、後ろを向いたままでもステージから落ちる心配が無くて怖くない、との事だった。トランペットの音がやたらレベルメーターを振ってくれるので、レベル調整にかなり苦労した。また、この時もできればもう少しマイク間の距離を狭くしたかったのだが、設置状況の問題でマイクをそれぞれ内側に向けてセットするという形で妥協した。

 その結果は・・・これまた「The Complete Works of O.P.E.」のCD35とCD36を(まだ完成してないんですけどっっ)お聴きいただきたい。現時点でメンバーその他に配布されているのは、ホールの天井からNT4を吊って、ホールに備え付けのMDデッキで録音したものを音源としてHP管理人がCDにしてくれた物で、おそらくかなり違って聞こえるはずである。もしも「えぇ〜?よくわかんなあ〜い(はあと)」などとモカダルマあたりに言われたら、多分、おそらく、きっと、いや間違い無く、私は素で泣いてしまうであろう。

つづく


2006/01/21 13:35