指揮者のつぶやき… 〜指揮者の寺子屋〜


[バックナンバー]


少年期の思い出その三、蝉
TAKAちゃん

2002/10/14 18:10

 昆虫採集に夢中になっていた頃のボクの一番の好みは甲虫類だった。カブトムシ、クワガタムシ、それにタマムシが、お目当ての獲物だった。そして、それらはめったに捕れないので特に貴重品だった。

 では、もっとも沢山捕れたのは何かというと、である。ボクは東京育ちのお坊ちゃまだった(この由来は前回書いた)から、高級な組み立て式の大きな捕虫網をもっていった。しかし、これはトンボや蝶を捕るには最高だったが、細い木の幹にとまる蝉を捕るには不向きで、いつも横から逃がしては笑われていた。地の子供達の主流は「取りもち」だった。竹藪から切り出した竹の先の方に、ねばねばした糊のようなものを付けて、これにくっつけるのである。しかし、せっかく捕った蝉に、この「取りもち」が残ってしまうので標本にならない。そこで、またわがままを言って布巾で袋を作ってもらい、それを竹の先に付けて蝉を捕った、いや捕ってもらった方が多かった。

 日本にも沢山の種類の蝉がいる。ニイニイゼミ、ツクツクボウシ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ヒグラシ、クマゼミ、エゾゼミ、などなど、ざっと数えても10種を軽く上回る。ところで、蝉にも鳴き始める順番があるのをご存じだろうか。もちろん地方によって違いがあるが、大抵のところでは最初に鳴き始めるのがニイニイゼミである。夏の訪れを知らせてくれる。天気予報がなんと言おうと、これが鳴き始めると本格的な夏の訪れである。これに続いて夏の初めと、そして夏の終わり近くに鳴くのがツクツクボウシ、朝夕の涼しいときに鳴くのがヒグラシアブラゼミが鳴き始めると夏も真っ盛りである。また、木によってもとまる蝉が違っていた。木の種類もさることながら、場所による違いも大きかった。アブラゼミをねらうならお墓の横の楠かその下の畠の中の柿の木、ツクツクボウシは川向こうのミカン畑・・・・などなど。皆がそれぞれに秘密の狙い目の木を持っていた。ボクはどうだったかって?ボクはどの木からも自由に捕ることが出来たのであった。皆が捕らないでボクに譲ってくれた。だって、お坊ちゃまだもの

 蝉も、他の動物と同じように、それぞれの生息域をもっている。ボクがよく行った母の実家である神奈川県の山では、最も多かったのがアブラゼミとツクツクボウシだった。岡山県南の岡山市や倉敷市で最も多いのはクマゼミであろうか。この蝉は南方系の蝉で、神奈川県ではまず見ることができなかった。当時の北限は伊豆半島だと言われていた。ボクが初めてクマゼミの声を聞き、その姿を見たのは、夏休みに家族で伊豆の修善寺の温泉に旅行したときだったと思う。これが蝉かと思うほど豪快な鳴き声と姿だった。今は、我が家の庭でも朝早くからうるさいほど鳴いているが、岡山に来た当初は奇異に感じた。この蝉の大きさは尋常ではなく、こちらに向かって飛んでくると思わずよけてしまうほどである。

 逆に、岡山市内でほとんど見かけないのがヒグラシである。この蝉は北方系で、何でも岡山県の由加山が南限だと聞いた。朝夕の涼しいときにしか鳴かない。カナカナカナという、何とも悲しげに鳴くのである。ボクにはひとつの思い出がある。前にもどこかに書いたかも知れないが、ボクは小さいときに体が弱かった。生まれた直後は、ひどい湿疹に悩まされていたようだし、小学校に入っても年に四回の季節の変わり目に必ず熱を出した。それも40度を超えるような高熱で一週間は寝込んだ。腎臓を悪くしたこともあった。両親は、とても健康に成人しないだろうと思っていたらしい。だからというわけでもないが、一人っ子だったことも手伝って、大切に育てられた。大切に、を通り越して完全な過保護もいいところであった。常に母親が横にいて、ボクが何か答えようとすると、全部答えてしまうほどであった。だから、いまだにボクは人前で話すのが苦手、初対面の人と話すのが苦手、同世代の人と気楽に、ラフな言葉で打ち解けるのが苦手、である。これではいけない、と思ったらしく、両親はボクをボーイスカウトに入れた。そして初めて家族と離れてキャンプに行ったのが、栃木県の西那須野の牧場であった、その松林では、夕食を済ませて薄暗くなり始めた頃、ヒグラシがカナカナカナとさびしげな声でしきりに鳴いていた。ボクは、猛烈なホームシックにおそわれて、涙にくれたのであった。

 しかし、この冒険が功を奏したのか、不思議なことに小学六年生の時から熱を出さなくなった。今では、熱を出すのも数年に一度くらいで、仕事を休むようなこともほとんど無く、子供の頃のことが嘘のように健康に過ごしている。もっとも、数年前の定期健康診断でちょっとした異常が見つかり、現在も軽い薬を飲んでいる。無理をしないで、自然の免疫力を強めて対処するしかないと言われている。一生のつき合いになるそうである。過度のストレスも禁物だそうである。でも、ストレスもなく、無理をしないで生活するって難しいことですよね。


2002/10/14 18:10