指揮者のつぶやき… 〜指揮者の寺子屋〜


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洪水
TAKAちゃん

2002/10/14 18:15

 今年もまた、異常な夏だったようだ。西暑北冷というか、異常高温の西日本と異常低温の北海道・東北といった夏だった。岡山では7月から8月にかけてほとんど雨が降らず、真夏日と熱帯夜が続いた。これほど雨が少なかったのは珍しいのではないだろうか。もっとも、1,2回まとまった雨があったので、月間雨量では例年と大差ないかも知れない。この原因は、エルニーニョ現象だとも言われるが、太平洋高気圧(小笠原高気圧)が8月初めに異常に弱かったためである。台風も異常だった。8月初めに2つの台風が来たが、いずれも日本の南海上を通り抜けてしまった。これは、例年なら9月末から10月にかけての台風のコースである。

 ところが、弱かった太平洋高気圧は、お盆明け数日の涼しさのあと、気を取り直したのか急に強まった。そのため、8月末の台風は東シナ海を北上して朝鮮半島に大きな被害をもたらした。これは、例年なら8月初めのコースであった。そのあとの台風は、とうとう北上できずに中国大陸に向かった。7月末のコースである。ボクは一応大学で「地学」を教えている。その中には、気象現象も含まれている。台風さんにも少しは我々教員のことも考えてもらいたいところであるが、自然現象だから仕方がない。講義で話したこととは、全く違った今年の台風のコースであった。

 雨の少ない日本と違って、ヨーロッパや中国では雨が多かった。そして、大変な洪水に見舞われた。中国ではここ数年、毎年のように洪水に見舞われている。河川管理や治水の不備など人為的な面も考えられないではないが、中国やヨーロッパのような勾配の少ない平地では、一度洪水になるとなかなか水が引かないのである。日本は、川の勾配が急なので、万一水が出ても数日で引いてしまうが、あちらではそうはいかない。何しろ、河口から数百km上流まで行っても標高がmしか高くならないような地形である。水が引かないのも無理ないと思われる。数年前に中国のハルビンに演奏旅行に行った、この時も歴史的といわれるほどの洪水の最中であった。空港に着く前の飛行機から見たまるで海のよう川は、いまだに脳裏に焼き付いている。

 今年の洪水の中心はヨーロッパだった。エルベ川に沿ったプラハやドレスデンといった中世から続く美しい街々が、次々と洪水に襲われた。特に、新聞やテレビで見た泥水に浸かったドレスデンの町並みは衝撃的であった。昨年のライプツィヒ演奏旅行の際に立ち寄ったあの美しい古都が、みんなで写真を撮った王宮が、残念ながら日曜日の休館で見ることができなかった美術館のあるツヴィンガー宮殿が、そして、ウエーバーやワーグナーの楽劇が初演されたゼンパーオペラが泥水に浸かっていた。ラファエロの「システィーナのマドンナ」を初めとする名作が無事だったらしいのが、せめてもの慰めであった。

 幸いなことに、ボクはこれまで洪水にあったことがない。しかし、友達の中には洪水の被害にあった者が数人いる。一人は高校の時の友人で、彼は伊勢湾台風の洪水にあっている。夜中に水が出て、まず2階に逃げたそうだ。しかし、やがてそこにも水が来て天井を手で突き破って天井裏に上がり、最後は屋根を破って屋根の上に出た。そして、やっとのことで救助されたそうである。もう一人の大学時代の友人の場合は、多摩川の氾濫で家を流された。テレビのニュースで家が流れるのを見て、大変なことだと思った。そして、数日後にそれが彼の家だったということを知って、愕然とした。

 異常気象の原因の一つに地球温暖化があると言われている。温暖化が起きると、地球全体ではもちろん平均気温が上がるのであるが、それだけではなく、気候の変動が大きくなると言われている。巨大台風の襲来や異常な豪雨に見舞われ、一方では小雨による干ばつが起きるそうである。温暖化の原因の大部分は人間活動によって放出される二酸化炭素である。我々が、夏は暑く冬は寒いという自然の営みを忘れて冷暖房により一見快適に過ごし、歩くことを忘れて自動車を多用する。そんな、現代の生活が地球環境を破壊し、そのツケが様々な形で我々に降りかかってくるのである。

 豊かな自然を無くし、豊かな資源を使い果たし、やがて人間の住めない地球だけが残る。そんなことにならないように、一人一人が環境保全に心がけなければならないと思うこの頃である。


2002/10/14 18:15