指揮者のつぶやき… 〜指揮者の寺子屋〜


[バックナンバー]


方(ほう)について考える
TAKAちゃん

2003/11/01 11:18

  最近の若者を中心とした話し言葉の中で、ボクが気になるのが「方(ほう)」の多用である。例えばレストランに入る、「いらっしゃいませ、何名様ですか?」とウエイトレスが聞く。「3名です、禁煙席がいいのですが」とボク、「かしこまりました、お席のへご案内いたします」。お席の方?ボクは一瞬とまどいを覚える。あぁ、席の方向へ案内してくれるのかな、と一応納得する。席に座ると「お飲物のご注文のを先にお伺いします」とくる。飲み物と料理の二者から一方を先に聞くのだから「方」なのかと、何とか納得する。やがて、「ビールのをお持ちしました」とビールがくる。ビールしか注文していないのになぜ「方」が付くのか悩むところではあるが、何しろ空きっ腹のビールはこの上ない好物なので、なぜかここではあまり気にならない。その後も「ご注文のをお聞きします」「××のは品切れとなっています」・・・・・と続く。食べ終わってレジにいくと、ここでも「ご会計のまるまる円となります」「まず先に千円札のをお返しします」「残りのお返しいたします」、そして最後に「またのお越しの、お待ちしています」とくる。ここまで「方」が付くと這々(ほうほう)の体で逃げ出したくなるような感じである。

 これは一例だが、世の中万事「方」が付くようになっている。ボクの勤務先の事務室でも、「お電話の有り難うございました」などという会話をしょっちゅう聞かされている。この「方」にはどんな意味があるのだろうか。

 ボクが考えるに「方」はかなり遠いところ、場所、を示すものだと思う。辞書で調べたわけではないが、例えば「遠方」「北の方」「上の方」「海の向こうの方」などのように使う。つまり、「方」を使うことによって、距離感を増し、不明確にし、断定することを避けていることになる。これからすると、最近使われる「方」も、それを付けた語、例えば「メニュー」を断定せず、曖昧なものとする効果があるのだとボクは思う。何かで読んだが、日本語では、丁寧に、相手を敬い、尊敬するほど、また偉い人に対するほど、断定を避け、遠くに置く傾向があるという。例えば話の対象となる人を指す場合に、親しい間柄では「お前」と呼ぶ。「前」は距離的には非常に近いところを表す。「お」は丁寧語だから、それでも一応は尊敬していることになる。女性はよく「あなた」という。これは「彼方」から来たものだろうから、かなり、距離を置いた表現である。されに丁寧にすると、「お前様(少し古いかな)」「あなた様」のようにその後に「様」が来る。「様」は「よう」だから、確かではないが「そのようである」という意味ととれる。自分のことをいう場合だって「俺」といわれたら親しみを感じるが、「俺様はなぁ・・・・」と暗がりの街頭で声をかけられたら、持ち物全部おいて逃げ出したくなる。

 従って、「方」も丁寧に相手を尊敬していたいがために付けられた語であると考えると、これを使いたくなることの理解はできる。しかし、ボクにはどうにもなじめない使い方である。

 長くなってしまった。この辺で今回の話題のを終わりにしたい。


2003/11/01 11:18