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バラバラのススメ
oni

2002/09/14 17:51

 私は多趣味である。趣味の中で最大のものは言うまでもなく合唱であるが,それには及ばないにしてもその次に来るのはアメリカンフットボールであると信じて疑っていない。
 まあそんなに力むこともないのだが,その熱の入れようというか酔狂ぶりは以下の通り。

 まず,新婚旅行は当時のなけなしの給料をはたいてローズボウル(新年にアメリカ各地で行われるその前年の全米各地区大学リーグの優秀チーム同士を招待してあちこちで開催されるビッグゲームの一つ。他のゲームもそれぞれの土地の名物の名称例えば,コットン(ダラス),シュガー(ニューオリンズ),オレンジ(マイアミ),などが冠される。ちなみにローズボウルは,バラの産地カリフォルニア州パサディナ市)へ。
 また,勤務校ではアメリカンフットボールの簡略版としてアメリカの子どもから大人までが草野球やストリートバスケットボール並みに親しんでいるフラッグフットボールのクラブを作り指導していたというか遊んでいたことがある。
 極めつけは,たまたま自分と同姓の選手が20年来応援してきた関西の名門校のクォーターバック(攻撃側の起点であり中心になる選手,チームの花形的存在になることが多い,以下QB)としてデビューしたときにちょうど妻のお腹の中にいた第3子が男であることが分かっていたため,すかさずその名前を拝借してしまったというミーハーぶりである。(言い訳するとその名前にしたのは他にもいろんな理由があったのであるが,これは長くなるので後日お話ししたい。ついでながらその選手隼人君は4年生時には甲子園ボウルでチームを大学日本一に導き,年間MVPを受賞した。現在TBSのアナウンサーになっているので応援してやってください。「はなまる」に出てます。)

 さて,この時期各地で(といってもさかんな地域は限られているが)学生を中心にリーグ戦が開始される。秋空の下,生の試合を見に行くのが楽しみな季節である。1シーズンに2〜3回はフットボールのメッカ,西宮スタジアム(ここが今季限りで取り壊されると聴いて寂しい思いに駆られています。)に足を運ぶものである。あのヘルメットと,プロテクターで身を固めてプレーする姿はあまり日本人には受け入れられていないが,慣れると実にりりしく見えるものである。しかも,あの装備でぶつかり合う生の試合を間近で見ると,パーンという乾いたクラッシュ音がたまらない。しかも関西学生リーグともなると各チーム応援がスゴイしそれが実に楽しい。
 そんな激しさや華やかさとは裏腹に,このスポーツは他のスポーツにはない実に緻密な面があるのである。その最たるものが,綿密なスカウティング(相手戦力および戦術の分析)をベースにした,ゲームプランニングである。そしてそれは試合中にもスタンド上部(その辺の試合ではスタンドがないため工事用の足場を組み多立てて高さを確保していることがあるが)に位置取ったスポッターによって状況がサイドラインの首脳陣にインターカムブレスト(ヘッドホンとマイクが一体になった分)を通じて伝えられ,ゲームの状況(リードかビハインドか,それは何点差か,ダウンと残り必須前進距離,残り時間,風向き,太陽の向きなど)を考慮してプランの修正が行われ,その時点で最も適切と考えられるプレーを選択しそれがサイドラインからプレーヤーに随時伝えられ実行される。そこには,フィールドが一つの臨床実験の場になったようなアカデミックでインテリジェンスな雰囲気さえ漂っている。フィールド上のチェスと言われる所以はここにあるのだろう。中にはスカウティングにコンピューターを導入し試合前数日間は大学の大型コンピューターをフル稼働させるというチームもあるから,まるで大学の威信をかけた研究発表の様相を呈する場合もある。それもそのはず,アメリカではこのスポーツの人気さの故,各大学にとってはチームが勝つことが,大学の収益につながるビッグビジネスになるのだから(入場料だけでなく,放送権料は莫大な金額になる)。

 実は私は最近,このスポーツとポリフォニー音楽の共通点を見つけてしまった。「えー!?」という声が聞こえてきそうである。確かにまるで関係ないように見えるが,自分がともに惹きつけられている以上は両方に何か通じたものがあるのだろうと思案しているうちに思いついたのである。ただし,強引に,無理矢理に,の感は否めない。したがって,かなりのバカバカしさも伴うので,お暇な方だけこの先をお読みください。

**** intermezzo(お好きな間奏曲を口ずさんでください)****

 有難うございます。ここから先を読んでくださるお暇なあなた(失礼)に敬意を表します。(笑)
 ポリフォニー音楽は,基本的には各声部がちがう動きをする。そして,テキストも声部にごとにずれて歌われていて何を言ってるか分かりにくい。つまりぱっと聞くとよく分からない,バラバラ。しかしこれはバラバラに動きながらも終止やテキストの重要な箇所に向けて目的的に動いている。また,その歌われるテキストに応じて有機的に動かされているし,縦の関係として常にハーモニーにも気を配って作られている。
 さて,これに対してフットボールでは,1プレーごとにスクリメージを組んで,ボールをはさんで攻守が向かい合い静止する一瞬があり,しかる後攻撃側の中心になるQBのシグナルコールの下,センター(スクリメージで静止している間ボールを確保している攻撃側の最前列中央に位置する選手,以下C)からQBにボールがスナップ(後方の選手にボ−ルを渡す渡す行為)され攻撃開始となる。
 ここからがポイントである。この瞬間,フィールドは静寂から,戦場へと変わる。このスポーツで最もスリリングで魅力的な瞬間である。QBは後方に素早く下がりながら自分の後ろに位置取るランニングバック(ボールを持って前進する役割の俊足で頑丈な選手,以下RB)にボールを手渡したり,スナップと同時に相手陣内に快足を利して走り込んでいるレシーバー(パスを受けるのが役目)にパスしたり,はたまた,自分が相手の陣内に走り込むべく左右のオープンスペースを果敢についたりする。それに対して守備側のフロントライン(第一線)の山のように大きな選手達は,ボールを持つ選手(QBやRB)をタックルしに,ラッシュしてくる。そうなると攻撃側のCを中心としたやはりでかい体格の人たちを揃えたフロントラインはボールを持つ味方の選手を守備側の選手にぶつかりながら防御(ブロック)し,パスの時間を稼いだり,予め決められた走路を確保したりするのである。スナップの直後に激しく起こるクラッシュ音はこのためである。守備側の後方を守る選手達は相手がパスを仕掛けてくるパス攻撃と見るや,自分の決められたゾーンに下がり入って来るレシーバーをマークしたり,スクリメージをQBやRBがボールを持って走り抜けてこようとするラン攻撃ならば前方にラッシュしたりする。

 以上がスナップの瞬間以降平均3〜4秒間にフィールド上で起こる一連の動きであり,これが繰り返されるのがフットボールのゲームの特徴でもある。おそらく,読まれてもちんぷんかんぷんだと思う。一度映像としてご覧になるのがいいと思うが,実際見ても最初はいろんな方向に人間が動いたり,あちこちで選手がぶつかったりしているだけでボールがどこに行ったかも分からないうちに,いつの間にか人の山ができているという感じになると思う。このように,フィールド上の攻守22人の選手達は見た目にはバラバラに動いている。サッカーや他の大半のボールを使ったスポーツのようにゴールの方に向かって一斉にという動きはしないのである。

 しかしその動きは常に毎プレーの前に行われるハドルという25秒以内の作戦会議において意思統一されたもので,決して思い思いに動いているのではない。つまり,ファーストダウンや,相手陣の奥にあるエンドゾーンにボールを持ち込んで得点を得るタッチダウンを奪うのに最適と判断され選択された作戦を実行するために組織的にかつ目的的に動いているのである。そう考えてからスナップ後の選手達の動きを見ると何と美しいことか。しかもそれが決まってファーストダウンなり,タッチダウンなり奪ったときなどは実に素晴らしいと思える。まさに,調和が取れているのである。
 バッハやパレストリーナに代表されるポリフォニーの音楽も各声部が調和しながら,有機的に機能しながら動いている様を聞くと,えもいわれぬ感動を覚えてしまう。

 もうおわかりだと思う。我々のやっている素朴な音楽と,この一件いかつくタフなスポーツの共通点が・・・。ね,似てるでしょ・・・。似てると言ってくださーい。(/_;)ま,要するにバラバラな動きをしてるけど,それはきちんとした目的の下に動いており調和の取れたものであるということ。他の例えでいうと,スパイ大作戦なんかいいかも知れません。人質救出が目的なら,それをチームの各員がそれに向けていろんな動きをするので,最初は何やってるかよくわからない。けれども,最後はそれが実にうまく絡み合って,無事目的達成というあのストーリー。どうです,似てるじゃないですか・・・って思うのは私だけか???

 フットボールとポリフォニー音楽,このどちらかが好きな人は,普通の人から見るとマイナス要因になるような(ここで言えばバラバラな動きみたいな)一件訳の分からないものに魅力を感じるマニアックな人とも言えますね。
 そう,だからこれを読んだOPEのあなた,変人とまでは言わないけど少なくともその一歩手前くらいまでは来ています。しかし,そのことに後ろめたさを感じることはありません。誇りを持って,後ろ指を指されても胸を張って生活していくのですよ!私はそうやって数十年生きてきました。エヘン!以上,団長訓辞でした。

 一緒にされたくないから辞めるなんて言わないでくださいネ。

 なお,これを読んでフットボールに興味を持った人は,一度ゲームに足を運ばれることをお薦めします。屋外での生の試合,実に気持ちいいですよ。関西の学生リーグの大きな試合になるとブラスやチアなどが出て実に楽しいです。でも興奮しすぎて声をつぶさないようにご注意!また,間違ってもOPEの練習日に行かないように!!と自分を戒めるのでありました・・・。


2002/09/14 17:51