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恨めしきは・・・
oni

2003/05/12 08:20

 この数日でかなり気温が上がって,今日のニュースでは屋外でビールを飲みながら行楽地の素晴らしい景色を楽しむ人々の姿が映し出されていた。この時期のなんてことのない風景であるが,ついこの間までの私だったらちょっと辛く感じていただろうなと思われる様子である。

 40歳くらいまでは,小さい頃からのアレルギー体質に,わが家に撒かれたシロアリ駆除の散布剤のために入院したこと(あのときは某市の某公立病院の院長に「白血病か」と疑われたっけ)と,たまに不注意でやってしまう怪我,そしていつも口や舌のどこかに口内炎が出続けていたことを除いては,熱もほとんど出したことがないくらいの健康体であった。

 5年ほど前になくなった母親は,若いうちからいろんな病気をした挙げ句,某健康食品(地中海沿岸地方で採れる果物のエキスをペースト状にしたヤツ)の熱烈な信奉者となってしまい,晩年は我々子どもたちにその効能を説いては常用することを勧めた。故郷から出てきたときなどこれをやられると,わざわざ遠路やって来て家事などやってもらってるのに無碍に断るわけにもいかず,ほとほと困ったものであった。

 しかし,その母のおかげでかなり食事には気を遣うようにはなっていたし,生来が意地汚いこともあるのだが,好き嫌いはアレルギーの甲殻類以外程度で他は肉,魚,野菜など余程の下手物以外はバランスよく摂取していた。だから病気,とくに生活習慣病などは無縁のものだ,という自負すら持っていた。

 ところが,40になるかならないかの頃初めてかかった人間ドックで,「あなたは血液中の『ニョウサンチ』が高い」,と言われた。それが「尿酸値」と書くものであることは検査結果の書かれたカードを見せられて知ったが,この意外な伏兵がその後の生活に大きく影響を与えるような代物であることをその時は知るよしもなかった

 その「尿酸値」とやらが,我がOPEの関係者にも数名存在する「痛風」患者に直接関係するものであることを知ったときは,不覚にも(失礼)変な親近感を覚えてしまったが,あの親指の付け根が痛む病気になっている人たちの仲間入りなんだと言われてもまるでぴんと来なかった。周囲にそのことを伝えてもたいていの人が「そんな病気になるような体型じゃない」というので,自分でも「何かの間違いだ」位にしか思っていなかった。

 しかし,それでもたまに短い時間ではあるがチクーッと痛むことがある。よく見ると痛む側の右の親指の付け根が左に比べるとふくらんでおり,やはり真面目に薬を飲み続けなければと思わざるを得ない。
 
 治療法は基本的に尿酸値を下げる薬と血液をアルカリ化する薬の2種類を毎食後に服用する。それを「死ぬまで」続ける。そして,肉魚の接種は控える。アルコール分は大量でなければいいが,それでも大好きなビールはダメ。結局「プリン体」という聞き慣れない物質が多く含まれるものはダメなのである。しかもこのプリン体,肉魚でもその含有率が低いものもあるし,野菜や果物だからといって一概に安心できないという厄介なものである。

 ということで普段の食事は十分気を付けていきたいところだが,プリン体の低いものばかり選んで食事を作ってくれなんて,マスオの私はとてもじゃないが言えないし,職場では給食だからなおさら無理である。従って,余程プリン体含有率の高いといわれるもの以外は食べてしまう。というか,出されたものは何でも食べたい方なので食べてしまうのである。第一めんどくさい。勝手になってしまった病気のために食べる楽しみを奪われてたまるか,手間のかかることなんかやらせるんじゃない,という半ばやけくそ気味の気持ちである。そして薬をきっちり飲んで尿酸値を上げないようにするのである。それでもすっきり割り切れている訳でもなく大丈夫だろうか,と不安になることもしばしばである。

 さすがにビールのようなものはいくら好きでも我慢しているが,あれだけ好き嫌いせずに来たのに,しかも結構質素な食生活だったのに・・・という不条理さに対するやりきれなさが募ってくることがある。だいたい,自分の食生活は間違っていなかったという自信があるし,確かにビールが好きでよく飲んでいたにせよ,それとてどのデータに照らし合わせても正常範囲内で,無茶飲みしていたわけではない。「一体何が悪かったんだ,はっきり説明してくれ!」というやり場のない怒りを覚え,いかにも病気になりましたという感じで薬を続けなければならないことや,世間一般の人と全く同じの全く気を遣わないでいいような食生活はできないという現状を受け入れられずにいた。

 そうなると学校で行われる栄養教育なるものにも棹さしてやりたくなり,子どもたちに,「自分みたいな者もいるから,好き嫌いなんかしてもしなくても一緒だ。栄養のバランスなんて考えんでもいいから,好きなものどんどん食べよう。」とそれこそやけくそ発言をしてやろうかと大胆なことを思ったりもした。でもそんなことしたら,養護の先生から怒られるだろうし,教育委員会からも注意されるだろうな,などと所詮気弱な私は考えたりしたのだった。

 しかし,最近になって故郷の父や兄も尿酸値が前から高かったということを聞き,ああ家系的なものであり自分の生活に問題はなかった(はずである)のだと確信を持って,幾分気が楽になった。

  そして,人間というのよくしたもので今までと同じような楽しみかたができないのならそれなりの楽しみ方を考えるものである。今年の夏は酎ハイ(焼酎は例のプリン体含有率0%)が強力な味方となりそうである。我ながら,全く現金なヤツだ,とつくづく思う。

 暑い季節になってきて,帰ってから食事前や風呂上がりにビールを一杯やったり,友人とのみに出た際にビヤガーデンでぐーっとやるあの爽快な楽しみも控えなければならない。病気と知らされるまではそんな不自由な思いや我慢を強いられて辛い思いをする,ということはなかった。今は一時ほど辛さを強く感じなくなり,健康の大切さをつくづく感じるとともに,この世でさまざまな病気のために「ごく普通」と我々が思っている生活をしたくてもできない人がいる,そんな人たちの思いに少しでも近づくいい機会になるかな,と余裕が出てきたのだろうか,自分の境遇を嘆く以外にそんなことを考えるようにもなってきた。


2003/05/12 08:20