SUPERIOR ROCK ALBUM DEPARTMENT
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Captain Beefheart & His Magic Band 「Trout Mask Replica」
リプリーズ WPCP-5738

Pantetsu      


                                
Captain Beefheart & His Magic Band「Trout Mask Replica」桜新町にサザエさん一家が住んでいる事は以前から知っていたが、鉄腕アトムが高田馬場で生まれたなんて事は最近になって知った。そんな人畜無害な家族や、正義の為に戦ってくれるロボット小憎誕生の地なんて事は、地域住民にとって、なんら問題も無く平和な事だが、俺の住んでいる新宿区中井には、なんとバカボンのパパ一家が在住しており、駅を降りた瞬間から町にはバカボンのパパ一家在住を象徴するような光景を見ることが出来、飲食店に入ればたいていの店にパパのサインが飾られていたりもする。近くにはバカ田大学もあるため、在校生から大学OBまでもが頻繁にパパを慕って訪れているようであり、ウナギ犬に遭遇した時はさすがに我が目を疑ったものだが、幸いにしてパパ周辺で展開される殺戮シーンを目撃した事は無く、やはり歳を取りすぎてパパも隠居しているのかと安心もする。

小雨のちらつく日曜日の朝、近くの自動販売機までタバコを買いにフラフラと家を出た。とにかく静かな住宅街である為、俺の足音以外は何も聞こえないはずだったが、朝っぱらから何か音楽のようなものが聞こえてきたので確かめようと近づいていくと、以前から気になっていた一軒家に辿り着いた。その一軒家は一年中夜昼を問わずに雨戸が閉め切られており、まるで空家のようなのだが人の出入りが有る事は確認済みで、電気の光も洩れてこないその家をナントも不思議に思っていたが、なんとソノ家のステレオとおぼしき再生装置から音楽は発せられているのであった。

流れていた曲は”Moonlight On Vermont”だった。ラジオなのかなと考えている間に、曲は”Pachuco Cadaver”に変わった。ゲゲ、日曜の午前7時から”Trout Mask Replica”をCDで聴いてやがる!恐怖と笑いで顔を歪ませながら自動販売機でマルボロを3個買い、戻り道で耳にしたのは”Bills Corpse”だった。間違いねー、コイツは普通じゃねー。早速家に帰って寝ている妻を叩き起こして、この大変な事件を報告したのだが「何?ビーフカレー?えっ何、魚オトコ〜」って極めて不快そうなので、お仕置きがてらCDを聴きながらココで少し説明しよう。

1969年に Captain Beefheart & His Magic Band が発表した作品で、ビーフハートがノンストップ8時間で28曲をピアノによって作曲し、9ヶ月の入念なリハーサルによって完成したアルバムであり、リハーサル期間中バンドのメンバーにはドラッグ&セックス禁止令が出され、ビーフハート以外はいっさいのインプロヴィゼーションが認められない状況の22時間で完成させた2枚組である。

デルタブルースとジャズが完全にアサッテの方向に放たれながらも、計算どおりの調和を産み出す姿は、信じがたい集中力とビーフハートへの信頼感を感じさせ、インプロヴィゼーションの認められない状況で作られた物とは信じがたく、実際にビーフハートが口移しでフレーズを伝えたように、我が口を使ってフレーズ表現しようものなら、寝起きの悪い我が妻も飛び起き、「どどど、どーしたの?」なんて恐怖におびえた表情で言う事になる。

そして「頼むから、朝からそーゆーCD聴くのはやめて〜」と泣くのである。
俺「そーだろー、俺が言ってる意味が解っただろ〜」
妻「解ったからやめて〜」とアンプのコンセントを抜くのであった。

天才バカボンを読む時のBGMにどーぞ。


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