SUPERIOR ROCK ALBUM DEPARTMENT
JAPANESE SUPERIOR ROCK ALBUM SECTION



FILMS 「Misprint」              Pantetsu
日本コロムビア COCA-6892


FILMS 「Misprint」80年代初頭ニューウェーブ/テクノポップなんてジャンルで、アナログシンセとリズムボックスなどの機械を使って音楽を作るなどと言う不届きなバンドが日本のライブハウスシーンに溢れていた。音楽は感情表現と確信していた私にとっては、その皮膚体温を感じられない機械的なサウンドに異常なほど拒否反応を覚え、このブーム以来、未だに私の中にその偏見を残しているのである。

髪を刈り上げ、もみ上げを落とした姿は滑稽にも映り、こんな音楽は、個性を主張し大衆との差別化に美得を感じながらも、結局は「個性的」なんてジャンルで括られてしまうように一様に同じ姿になってしまう新物好きの美術学校生や服飾専門学生の上っ面によって支えられている音楽にしか思えなかった。ブームの中心には数多くのキャリアを持ったミュージシャンが存在していたにもかかわらず、私はこのブームの中にはファッションしか感じ取れなかったのである。

現在、社会問題化している「ひきこもり」や、与えられた共通言語でしか人間を判断できないような「アニメ、ゲームオタク」の一極的な価値観を作り出したのは、当時の小学生に絶大なる人気をはくし、閉塞的な未来のプロバガンダに成功したのはYMOの大罪であるし、会話の中での例えとして何かと「ガンダム」を用いるバカが多い事に、本気で未来を悲観するとともに、80年代の新しいムーブメントには、つくづく作り手側と受け取り側の未来に対するギャップが大きすぎたように感じてならない。

そんな新しいものを受け入れるほどの器を持ち合わせていなかった無知と偏見と差別の自己中心的な私でも一枚だけ大好きなテクノポップアルバムが有る。それがコノ赤城忠治率いるフィルムスの「Misprint」である。赤城氏は、誰もが想像できうる範囲の未来の中に日常と照らし合わせた警告を発しているが、あくまでラブソングとして物語られ、聴き手に余分な負担を強いては無い。そして、その危なげなテーマをキャンディコートするメロディーは絶妙な甘さ加減で作られ、エフェクト処理と共にポジティブな輝きを放っている直球メロで、天才メロディメーカーと当時の最新機器MC−8で作られたサウンドは正真正銘のテクノでPOPであり、私を中毒にするに十分だった。

時代の先端に存在したムーブメントは時代の流れと共に急速に色あせるのが常であるが、テクノポップの大前提であるアナログ・シンセサイザーの音も、今ではチープサウンドと称される事が多い。しかし擬似アナログ楽器としての頻度が多い本末転倒な90年代以降のシンセサイザー利用法よりも80年代初頭のあくまで楽器としての利用が絶対的に正しい。


 フィルムス(FILMS) 「Misprint」 COCA-6892 日本コロムビア

手塚治虫の様に解り易い未来観は甘く切ないメロディーに乗せて警告される。
時代的な「テクノポップだぞー」ってな派手さも無く、正統派のPOPミュージックに余りにも自然に機械を導入している為、時代に黙殺された感もあるが、これこそが本当の意味でのテクノポップなのでは無いだろうか?荒唐無稽では無い未来は、親近感と説得力を持ち、聴き手に安易な想像をさせる。それは作り手の意図に限りなく近づく事となる。名盤。

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