SUPERIOR ROCK ALBUM
DEPARTMENT
JAPANESE SUPERIOR ROCK ALBUM SECTION
ミラクルヤング / ミラクルヤング
Old WISE Records OWR-0893
Pantetsu |
「なんて言うか自分らの魂みたいな、そんなふうにやっぱり売り渡したくないんですよね、それよりもまあ僕らの本当のメッセージみたいな、なんかそんな物を伝えて行きたいと思っているんですけど・・・平和とか戦争反対とかそんな様事を・・・・」
今や作家先生となった町田康は上手な営業スマイルを身に付けて、著作のサイン会を行い、渋谷の書店に行列を作り出し、新しいバンド”ミラクルヤング”では精力的にライブを展開し、サービス精神一杯のCD発売握手会の会場には"エルメス"のバックをもって登場した。
日本ロックの名盤と名高い”メシ喰うな”の発売から20年以上が経過し、日本のパンクシーンは当然に大きく変化し”パンクロッカー”を自称するミュージシャンは数少なく、何の意味を持って発言しているのかサッパリわからないが、頑なに「僕はパンクロック歌手です」と繰り返す”町田康”が、やはり興味の対象から外す事の出来ない存在なのは確かで、ついついCDを手にとってしまう事となる。
冒頭に記した、いかにもロックバンドらしいセリフを、恥ずかしく陳腐な姿として曲中にたどたどしく挿入しながら、何かにアンチな姿勢を貫こうとしながらも陳腐な一員となっていることは、どうにもならない事実であり、ジャケットからして余りに解りやすいパロディで有りながらも、今ひとつ面白みにかける原因は何なのか。
そもそも”町田町蔵”を名のっている頃から、不可解で無意味な言葉を連発する事によってイメージを作り出していたのであって、具体を連想させるような表現や、無駄に解りやすい否定表現は、まったく不必要な感じがしてならない。自分自身を”パンクロック歌手”としてパロディ化しようとしているのであれば表現足らずであり、子供だましのパンクロックはパロディではなくなり陳腐その物となりうる。
「脳内シャッフル革命」なんて余りにも酷い駄作を作り出してから5年振りくらいになるのだろうか、今回の「ミラクルヤング」は町田康TheGlory「どうにかなる」に近い雰囲気を継続しながらも、町田康&佐藤タイジ「心のユニット」で見せたメジャーシーンで大ヒットしても不思議でないくらいにPOPで美しい一面も併せ持った作品となっている。
明確なメロディーを持つ事によって町田康の表現力は一段と進歩していると言うか、今まで以上意識的にに歌を唄おうとしている方向性は決して悪い事では無く、バンドとしての力量を平均的に高水準に押し上げている。とにかくバンドの演奏能力と音は文句の付け要が無く、全編にロックバンドの御手本のような雰囲気が音として詰め込まれている。
おそらく長いキャリアの中で「メシ喰うな」と比較される事を色々な意味で避けて来たのだろうが、今回の作品に関しては、そんな事はどーでも良く、製作に携わった人間が正面から「メシ喰うな」を捉えているような気がして、これはこれで結構楽しくも嬉しい。「ミラクルヤング」はPOP過ぎると批判もあるだろうが、そもそも「メシ喰うな」はPOPなアルバムだったわけで、町田康は基本的にPOPな人なんだ。
「お前ら皆、PUNKなんて言葉に大儀を求めて自分の嗜好を大袈裟な精神論とともに高尚なものと祭上げたいだろう?俺はJPOP好きとは違うって言いたいんだろ、ほら俺がPUNKなんだよ、カッコイイだろ、PUNKってのはコレなんだよ」と言いながらも、「まー別にそんな事どーでもいいんだだけどよ」なんて明後日の方向を見ながら鼻の穴に指でも突っ込んで、結局PUNKなんて事よりも単純に音楽が好きで音楽活動を続けているって事らしい。
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