SUPERIOR ROCK ALBUM DEPARTMENT
JAPANESE SUPERIOR ROCK ALBUM SECTION


ザ・バッヂ The Badge / タッチ Touch
SS Recordings / スカイステーション SS-104

Pantetsu    

                              
1983年、中野サンプラザでジョン・ロットン(Public Image Ltd.) を観た帰り、興奮冷めやらぬ頭をライブスケジュールが終わった後の新宿ロフトのカウンターで一杯やりながら冷まし、ほろ酔い加減よろしく小田急線最終電車に乗り、下北沢駅のホームから線路に飛び降りて新宿方面の踏切まで小雨の中を走った日。

クセの有る客でひしめく下北沢のロックバー”ピーチ”の一階のカウンターは既に満員で、入り口に少々座れるだけのスペースを空けてもらい、ドアを開けたまま半身だけでビールケースの座席に腰掛、ロバートブラウンのボトルから酒をつぎ、一息ついてバジルスパゲティーでも注文しようと思っていた時、なにやら男の絶叫が聞こえてきた。終電も通り過ぎた静かであるはずの踏み切り辺りから「ヤメロー」とか「ウギャー」とか「グワーげほげほ」とか尋常でない叫びが聞こえてきた。

何事かと立ち上がろうとした時、私の目の前をビショ濡れの男が走り去り、その後を消火器を抱えホースから消化液を噴射しながら走る男。私は事件かと思い、外に出て彼らの姿を探した。彼らは本多劇場付近で揉み合い、今度は追われていた男が消火器を噴射しながら追っていた男を追いながら戻ってくる。彼らは二人とも消化液でびしょびしょになり、閉店している商店のシャッターにぶつかっては止まりを繰り返し、道に転げ回り大笑いしていた。なんだ事件ではなく酔っ払い小僧の度の過ぎた遊びかと私は店に戻った。店の客は誰も、この騒ぎに感心が無かったのか気がつかなかったのか日常茶飯事なのか興味を示すようすは無かった。

程なくして、その二人の消化液びしょ濡れ野郎どもが店に飛び込んできた。人の身体に触れづしてトイレに行ったり、店の奥に移動する事が出来ないほど狭い店である。そこに、まさになだれ込んで来たのである。彼らが私の前を通過するだけで私も消火器まみれになってしまった。いや、他の客とて同じ様に汚されているのである。しかし客の中で咎める者は居ない。それよりも歓迎している様でもあった。そして消火器野郎二人は、何事も無かったかのように満席の店内の中央に無理やり割り込んで飲み始めた。いや、もともと店で飲んでいた客のようでもあったが。

そんなムチャクチャな光景が頻発するロックバーでザ・バッヂ(The BADGE)の中村氏と何度か話をする機会があった。丁度デビューアルバムが発売された頃である。最近CDを入手し久しぶりに聴き、切ないメロディと共に若かりし当時を思い出し、胸が詰まる思いである。ロックやモータウンの基本調味料が抜群な配合で絡み合い、オーソドックスなスタイルの中に中村氏のメロディーと言葉が確実に存在する、日本ロックの教科書に成り得る一枚だ。

その後、ザ・バッヂのライブにを何度か足を運び、四谷フォーバレーや渋谷エッグマンでの前座のバンドに消火器野郎の二人を確認した。





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