ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION



ラブジョイ LOVEJOY

「うたもの」
  松田裕之

数年前まで毎晩地下の酒場で飲みつぶれていた時期があった。売れない演歌歌手や自分の戸籍を売った男から某大手出版社の重役など多彩な常連達の中で飲むのは楽しかったのだが、金は尽き健康は失われ精神は消耗していった。イライラして何もかもが気に入らなかった。

気が付けば一見の若者の客などがチャラチャラした歌をカラオケで歌うのに唾を吐き罵倒しまっくて大暴れしている自分が居た。自己破壊の坂をゴロゴロと音を立てながら転がり落ちていっていたのである。

見るに見かねた店の女の子がコップ一杯の水とCDを一枚持ってきた。何これ?と問うても、いいから聴けとだけ言われる。「ラブジョイっていうタイトル?」「それはバンド名」どっちでもいいけど今更こんな恥ずかし気なCD聴けるかいと、突き返そうと思った。しばしの押し問答の末、なぜ持ち帰ったのかというとbikkeのバンドだと聞いたからだ。

アーントサリーや町田町蔵のFUNAなどの前衛的バンドでギターを弾いていたbikkeのことだ、やってくれるだろう。きっと俺の精神にとどめを刺してくれるに違いないわい・・・がはははは・・・それでいいんだろう?彼女。ありがとう!

持ち帰ったCDを聴いてぶったまげた。恐ろしいまでにポップな歌ものだったからだ。激しく予想を裏切られたが悪い気分はしなかった。確かにポップでストレートな歌詞なのだが、よく聴くと彼らがメインストリームからちょっと外れているポジションに居ることが分かる。普通の様でいてちょっと妙。なんか心に染みるね。こういうのたまに。

程なく酒場は再開発のため立ち退きになり、禁治産者一歩手前で危うく生還することが出来た。取り壊しの日、壊されていく酒場を電車の窓越しにぼんやり眺めてた。携帯プレーヤーをちょっとミュートしながら。

ラブジョイ「妙」 ラブジョイ 「妙」 Biosphere Records ZA-0011
元アーントサリーのギターリストbikkeのバンドです。余計な間奏を極力排除しているかのように作られたポップな歌もの。普通の様でいてちょっと妙な独特な世界観があります。


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