ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION
すかんち
「バカテクで畳み掛ける変態軍団」 SHINGO
3200円しかなかった。
私が20歳のときのある日のことで、給料日前のジーパンのポケットには3200円と10円玉や1円玉数枚しか入っていなかった。しかしその頃の私の生活レベルならメシだけなら一週間、飲み屋で一杯呑んでも3日ぐらいは生活する自信があった。にもかかわらず、買ってしまったのだ、すかんちのCDを!おかげで給料日まで先輩や友達にタカる日々が数日続いたのだが、聴いたことはもちろんナシ、予備知識もまったくナシのバンドになぜそんなことをしたのかまったくもって意味不明である。
今思えばその瞬間、ローリーの黒魔術にかかってしまっていたのかも知れない。なにはともあれ、こうしてわたしはすかんちの音楽に初めて触れた。ブッ飛びましたよ、マジで。グラムロックなのやらヘビーメタルなのやらアイドル歌謡なのやら、とにかくジャンルが判らない。
余裕たっぷりのバカテクで連発されるヘビーギターリフの嵐に体力有り余りのパワードラムス。それでまー、そのサウンドに乗せて歌われる歌詞の少女チックでファンタジックでロマンティックなこと!!
私は直感した「こいつらは変態や・・」。バンド名の由来は大阪弁でヒトをケナすときに使う「このチンカス野郎!」の「チンカス」を逆さまに読んだものだそうだ。なんと謙虚な変態たちであろう。そしてまるでベルサイユの薔薇からとびだしたようなあのルックス。なんと怖いものナシの変態たちであろう。カッコイイとも美しいとも、微塵も思わなかった。
しかしグイグイとその世界に引き込まれハマッてしまった。なぜかわからない。やはりリーダーであるローリー寺西の変態魔術にかかっていたのだろう。私は完全なリスナーなのでテクニックのことはまったくわからないが、間違いなくハンパじゃないであろう自身満々のあのギターテクニック。またモテない少年が、それ故に手の届かない高嶺の花にあこがれる歪んだ恋愛感情を見事に露呈して見せた文学的な歌詞。
そして学生時代に好きな女の子の誕生日にオリジナルのロックオペラを吹き込んだカセットをプレゼントした、というローリーのセンスによって生み出される、妄想すれすれの壮大でドラマチックな世界。これら一つ一つが呪文であり、それらが織り成り生み出される強大な力の魔術がすかんちの音楽だったのだろう。7枚のオリジナルアルバムを残して解散、ソロになったローリー寺西はさらに変態度を増して今も活躍中である。現在、私はどうやらローリーの魔術からは解放されたようだが、今後私のように変態魔術の餌食になる人々が出ないことを心より祈っている。
☆これを聴け!☆
SWEETS〜SCANCH BEST COLLECTION SRCL-2827 | |
変態魔術のパワーが一番強かった、初期から中期にかけてのベスト盤。 魔術にかかりたくない人は決して近寄ってはいけない一枚だ。 |