ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION



アンジー

「水戸華之介は、いじめられっ子か吟遊詩人か」
  SHINGO

「インディーズ」。1985年頃、この言葉に日本の音楽界は踊っていた。“自主制作”というこの手法に多くのロックバンドたちは自分達の表現方法を求めていた。しかし当時のインディーの実態はインディーズレーベルから作品を発表し、そして名前が売れてきたらメジャーデビューという、商業ベースにちゃんとのった、メジャーバンド養成所のようになっており、本来の“インディペンデント”という意味が歪められている感があった。

アンジーはこのような状況の中インディー時代が長く「メジャーには行かないのかな?」と思わせるようなバンドだった。結果的には宝島社が経営する“キャプテンレコード”という半メジャーレーベルから作品を発表→メジャーデビューという道を辿ったが・・・。

アンジーの楽曲の歌詞の全てはボーカルの水戸華之介が書いており、これは結成時から変わっていない。彼の詞はナイーブな人間の内面世界を深くついており、純文学の小説を読んでいるような、もしくは心理学の本を読んでいるような感覚に陥る。“ガンバレロック”と呼ばれるメッセージソング華やかなりしその当時、少なくとも私の中ではそれらと完全に一線を画した歌詞だった。最初聴いたときは案外わかりやすい。

歌詞カードを読んでみる。考えるほどわからなくなる。何回も聴き込んでいるうちにゾッとする。インディー時代の代表作品「嘆きのばんび」(※1)収録の“でくのぼう”という曲の歌詞は今聴いてもゾッとする。「バス通りをずっと歩いたら大勢から傷つけられたよ:いっそのことただうすのろいでくのぼうになってしまったら:誰かボクに嘘をついてよ全然平気さボクは今日からでくのぼう」かなり歪んだヒトだ・・・。メジャーデビュー盤「溢れる人々」(※2)収録の“天井裏から愛を込めて”の歌詞もかなり歪んでいる。「ほらほらねえねえ空気の真似してボクがいる:天井裏からなら素直なあなたがよく見える:天井裏から愛を込めてダイスキ」実際に天井裏に潜って彼女を見つめていたわけではないだろうが、それを望む愛情というのもかなり病的である。

このような歌詞をオーソドックスなビートロックに乗せて、当時少なかったパンダメイクで歌う水戸華之介のセンスの根源はどこにあるのだろう。同じく「溢れる人々」収録の“笑い者”の歌詞にそれを垣間見ることが出来るように思う。

「笑い者でいいから相手にされたくていかれた服着て街に出てみた:ダサいジョークしゃべって頭を掻いてみた」おそらく彼は“いじめられっ子”だったのではないか。

みんなに取り囲まれて服を脱がされたり殴られたりするいじめは受けないにしても、精神的に隔離され仲間の輪の中に入っていけない、それが被害妄想であったのかどうかは別にして、少なくとも彼はそう感じて日々をすごしていたのではないだろうか。そして“相手にされたくて”“いかれた服着て”“歌いだした”のではないだろうか。“バカ騒ぎ”の彼らのライブは、そんな想いを裏返した“ノー天気”を演じているものだったのではないだろうか。

そうして“世間”に自分の存在を見せつけた“掃き溜めの街で歌い始めたチンピラ達”は“素晴らしい僕ら”と聴衆に訴えるようになった。この“素晴らしい僕ら”が収録されている2ndアルバム「新しいメルヘン」(※3)あたりから“いじめられっ子”の歪んだ神経がなせる詞世界は“吟遊詩人”が表現する詞世界へと昇華したのだと思う。

この頃彼らが自分達の音楽を“ポコチンロック”と評していたが“いじめられっ子が吟遊詩人のような言葉を並べて、ノー天気を演じながら踊りまわる”のが彼らアンジーであり、この雑文の表題の答えがここにある。

まあ勝手な解釈で偉そうに評してきたが、難しい事を考えなくても彼らの歌は文句なく楽しめる。一度聴いてみると私とはまったく違うイマジネーションを受けるヒトも多くいるだろう。それでいい。彼らの音楽は幅広いけれども奥深い、いろんな顔を持ったトーテムポールのような音楽であり、きっと彼らはそういう聴かれ方を望んでいるだろうから。


☆これを聴け!☆

アンジー「嘆きのばんび」 アンジー 「嘆きのばんび」  メルダック MED-2001
博多のジュークレコードというレーベルから86年に発表されたインディーズ時代の名盤。89 年にメジャーで再発された。名曲揃いで“幸運(ラッキー)”は映画の挿入歌にも使われた 。
アンジー「溢れる人々」 アンジー 「溢れる人々」   メルダック MECQ-15004
「遅すぎたメジャーデビュー」といわれたデビュー盤。“天井裏から愛を込めて”はカラオケでも歌えます。
アンジー「新しいメルヘン」 アンジー 「新しいメルヘン」   メルダック MED-48
ポジティブに、元気になれるアルバム。“素晴らしい僕ら”には結構励まされたっけ。




Back

Top