ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION



スターリン   

「死んで伝説に成るべからず」
     Pantetsu


私の十代の時の興味は、赤、差別、宗教、前衛、であり。表面をかじっては否定と肯定を繰り返しながら、学校を頻繁に休み、名画座や練習スタジオで過ごしていた。当然、それ以上に下半身に血液が流れる事の方が多く、脳みそに行き渡らなかったのも事実である。人並みに刺激を求めていた。パンクも東京ロッカーズもガロも丸尾末広も好きだった。グランギニョルの血しぶき、じゃがたらの頭割にも笑ったが、どーも、スターリンには興味が持てなかった。愛欲人民十時劇場のレコードは手にとっても、スターリンには目もくれなかった。

「STOP JAP」が発売になり、オリコンチャートを震わした時、「やっぱりインチキ」と思った。大体、私はソリッドな音は苦手だし、真剣にチンチンだす様な音楽は嫌いだった。スターリンの登場は余りにもストレートだ。そして余りにもパンクだった。思想とチンチンを一緒に表現するのは難しい。チンチンは己の意に反する行動をするからこそ愛着が湧くのだ。

しばらくしてメジャー2nd「虫」が発売される。「おっ! ジャケット良いねー」てな訳で聴いてみる、すると今までのスターリンとは違う、湿っぽくて粘り気のある音に成っていた。「結構カッコ良いじゃん」と素直に感じた。レコードには「どえらいカッティング方法なので針圧が軽いとテメーラ音飛ぶぞ!」などと警告分が記されており、余計に興味を惹かれたものである。スピード感に頼らないスターリンを世間がどのように判断したかは知らないが、私は以前のスターリンより好みだった。メジャーレーベルだから、ましてや2ndだから、一般的に媚びた音作りだったのかもしれない。基本的に私はコマーシャルな音作りに対して「表現者の努力の結果」と判断する所も有るので、売れ様が売れまいが「聴衆に歩み寄る妥協」は否定しないのである。そんな具合にマイナーエログロ変態バンドをメジャーにすると言う、アイドル売り出しの様な、業界のパンクロック大作戦は成功したのである。スターリンの成功は確実に後の日本ロックの形態を変えたことは事実だ。

   しばらくして、スターリンのサポートバンド(前座)として、私は同じステージに上がる事になる。その時に幾つかの会話をしたが、遠藤ミチロウ氏は異常に腰が低く、丁寧な話し方をする人だった。本物だった!パンクだった!好きになった! 丁重なミチロウ氏はカッコ良かった。
スターリンの本番はステージから3Mくらいの場所で見た。危険地帯を避けたつもりで居たが、唾の弾丸は見事に垂直のまま着弾した。ミチロウは唾を飛ばす練習も怠ってはいない。

それから20年近くが過ぎ、50歳を過ぎた遠藤ミチロウ氏を観た。平均のテンションは落ちてはいるが、それは現状の音楽に迷いが有る事から来ているように感じた。
しかし「お母さんいい加減あなたの顔は忘れてしまいました」の時などはスターリン時代以上の凄みを感じて私は全身の毛が逆立ったのである。この曲は絶対に「ベトナム伝説」のバージョンより、アコースティックのバージョンの方が迫ってくる。たぶん、この曲は寺山修司「書をすてよ・・・」の映画の挿入歌から影響を受けたんだろう。この曲聞くと丸尾末広の画が頭の中に飛び散っていく感じだ。

ミチロウは何歳まで続けられるのか?60、70歳を過ぎても「お母さんいい加減あなたの顔は忘れてしまいました」を聴かせてくれ。今死んで伝説にしてしまってはいけない。老いても尚、現役でパンクを貫ける数少ないアーティストだから・・・日本パンクの始めと終わりが見たいものだ。

Stalin 「虫」 ザ・スターリン/The Stalin 「虫」 TKCA-71508
メジャーからの発売ともなれば当然に言葉の直接的な表現には限界があり、インディー時や1stの様な勢いも無く、直接的な変態は控えられている。しかし、表現の規制は逆に文学的方向性を持たせる事となり、より深くエロを追求する結果となり、全体を流れる湿り気がたまらなく良い。丸尾末広のジャケ画を考えるとLPで欲しいタイトル!



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