ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION



JAGATARA

「こわれもの」
    ゴリ松

人っていうのは「こわれもの」。
まったく人の心の壁っていうのは、薄いガラス板でできているのかと思えてしまうほど、人は簡単に壊れてしまう。

その証拠に俺の周りは、この「こわれもの」という奴らでいっぱいだ。

家庭教師、高校教師、中学の先輩、同僚、そして元愛人と色んな人間が内部から壊れていった。 精神分裂、麻薬中毒、躁鬱、過食、自傷と様々な壊れ方を露骨に曝し、「こわれもの」たちは常人の域を逸脱していくのだ。

裸で公道を歩き回り、買い物カゴに入れる前にスナック菓子をバリバリと頬張り、死なない程度に皮膚を切り裂きき、見えないものに怯え、怒る「こわれもの」たちの姿は、こわれていない側から見れば鳥肌が立つほどに不気味だ。

6年前。俺が市街地から山添の町に移り住むきっかけとなったのも、奴ら「こわれもの」が大きく関わっている。明らかに「こちら側」とは違う「あちら側」にいる奴から、自分と家族を守る為に逃げ出したのだ。自分の行動に対しての言い訳ではないが、「こわれもの」に対する恐怖。それは誰もが持ち合わせている感覚だと俺は思う。そうだろう。君たちも、そう思わないかい?
 
さぁ、前置きは長かったが、ここからが本題だ。
「こわれもの」即ち、それは恐怖の存在。それなのに何故なんだろう。人は「こわれもの」に興味を抱いてしまう。ましてや俺などは「こわれもの」の怖さを十分に知っている筈なのに、「あちら側」を覗いてみたくなるのだ。

それは芸術や音楽という分野においても当てはまる。狂的で不可解な作品であればあるほど、不思議と魅せられてしまうのだ。
 
君たちは「暗黒大陸じゃがたら」というバンドを知っているか。
インディーズ・ファンならば誰もが、奴等の奇行、悪行(チ*ポ出し、生肉喰い、小便飲み、脱糞、頭割りetc)を記憶しているに違いない。

音だけを聴けば、メリハリのあってノリの良いビートを叩き出すファンク(?)・バンド。とても上記のような行動は想像もつかない。だがしかし、「じゃがたら」の見せるキチガイじみた行動は、決してパフォーマンスとしては終わらなかった。ボーカルの江戸アケミが精神分裂。それに続きベースのNABEまでもが「こわれもの」に。メンバーの内、2名が続けざまに「あちら側」へと行ってしまった。

「日本は今、経済繁栄しているが心の中は暗黒だ。」とアケミは言った。
「心に巣食う闇」...もう君は気付いたかい?

そうそれは「こちら側」と「あちら側」とを結びつけるキーワード。それは誰もが持ち合わせているもの。冷静に見つめると、それは恐怖。しかし手を伸ばせばすぐに届くところにそれはある。「こわれもの」に対しての恐怖は、実は自分が「こわれもの」になれるという恐怖。「こわれもの」に魅かれるのは、それが真実のひとつだから。
 
あれからもう20年近く時が経ったというのに、俺はまだしっかりと奴等の音を歌声を憶えている。 もう奴らは、この世にもいないというのに。

西暦2000年分の反省 JAGATARA  西暦2000年分の反省〜BEST OF JAGATARA
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