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岡林信康

「いつかまたきっと何処かで」
      松田   裕之

梶原一騎は漫画の原作で数々の名曲を歌った。父子愛と男の友情を歌った巨人の星は名曲だが、スポ根とヒーロー物を合体させたタイガーマスクもいい曲だ。主人公タイガーマスクこと伊達直人は孤児として育った。虎の穴での地獄の特訓に耐え抜き、金の稼げるレスラーとなった彼は虎の穴さえ裏切り孤児達のために闘い続ける。

彼の夢は大きい。富士の裾野に「みなしごランド」なる豪華絢爛な施設を建設し、全国のめぐまれない孤児に幸福を与えようとするのだ。でかい、あまりにも壮大な夢だ。男たるモノこのぐらいの夢は持たねばなるまい。彼は誰にも正体を明かさない。家族も居ないので薄々感づいているルリ子以外はタイガーマスク=伊達直人と知る者は居ない。「苦労して得た金など誰も受け取らない」。だから金持ちのボンボンを装って寄付をするのだ。自分は贅沢などせず全てを。恐ろしいまでのストイシズム、見返りを期待しない無償の愛。いい曲だ。世界チャンピオンに挑戦という千載一遇のチャンスを得ながら、交通事故であっけなく命を落としてしまう。死ぬ間際、虎の覆面を川に投げ捨てて。「みなしごランド」の完成もみずに死んでしまった彼の人生は報われたとは言えないだろう。いや、報われなかったからこそ、その生き様が光り輝くのである。

岡林信康という人もなんか報われない人のような気がする。ディランズ・チルドレンと言われた世代のフォークのトップランナーでありながら、そうであるがゆえの軋轢や制約に嫌気がさしてメジャーな音楽シーンから消えていった。もちろん高度経済成長の高波が反戦だの攻撃的だのといったフォークを一気に消し去ろうとしたのもあるが・・・。金持ちになると自分が貧乏で反権力的だった頃を突きつけられるような唄は排除するようになる。忘れたい過去もあるんだよ、てね。いつ間にやら四畳半に女と暮らして一緒に銭湯に行ったなんて、美しい恋物語に思い出は美化されていくのでありますなあ。吐き気がするたらありゃしない。

確かに岡林の唄は現代にはそぐわないし、必要無いのかも知れない。無様なまでに自分の弱さや、苦悩をさらけ出す歌詞は時に痛々しいし、その攻撃性も今や的外れな気もする。でもね、俺は思う。いつかこういう物が思い出される日が来るってね。

岡林信康「見るまえに跳べ」  岡林信康「見るまえに跳べ」 SM - ASIN: B000064D57 
見るまえに跳ばなきゃ駄目だろ?これ当たり前。

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岡林信康「見るまえに跳べ」

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