ROCK ARTISTS BIOGRAPHICAL DEPARTMENT
JAPANESE ROCK ARTISTS SECTION


角谷美知夫

「死ぬほど普通のふりをしなければ」
                   

松田   裕之

    世間一般的なステロタイプのロッカー像ってやつは、革ジャン着て拳を握りしめ世間に対して不満などを絶叫する青少年ってイメージだろう。若さとやり場の無かったエネルギーが対社会にぶちまけられた時、皮肉にもその社会からの共感を生み、銭が儲かってしまうのだが、そういう社会システムすら気が付かない愛すべきお馬鹿ロッカーはごまんと居るわけで、いまやデファクトスタンダード。まあそれはそれでいい。何がアホかというと市井のロッカー達が老いぼれてきてそのエネルギーを失うや「こんなことじゃダメだ!」と錯誤し、反社会的な行動を取ったり、革ジャンを着てみたり所謂「ロック的」な行動を取ることによって「俺ってまだまだロックだよなあ」とういうような自己陶酔をしてしまうことだろう。無惨なまでな滑稽さ。「何かを越えなきゃならない」という大儀を胸にさっさと墓場に行って欲しいものである。

    角谷美知夫という男がいた。彼は「死ぬほど普通のふり」をしてやっと社会の中で生きられ、尚かつロッカーだった。「腐っていくテレパシーズ」という彼の生前の音源を編集して作られたアルバムがある。これ程までにマイナスなエネルギーが充満し、これ程鬱なCDは他にないだろう。いちいちリアルな言葉で紡がれた彼の歌は、フェイクに慣れすぎた我々には痛すぎるのだ。サイケデリックな音の嵐の中で絶叫し続けることで、彼は社会との平衡感覚を何とか取っていたのだが、それは当然長続きなどしない。ドラッグ中毒からの膵臓炎でこの世をあっさり去る。というより、帰るべき所に帰ったと言うべきか。

    だがしかし彼の言葉が彼自身のリアルな叫びだったかどうか疑問は残る。彼は歌う「俺の中にはヨソモノが入りこんでいる」と。我々が聞いているのは彼の言葉かヨソモノの言葉か?それもまあドグラ・マグラ的でいいか・・・。


角谷美知夫 「腐っていくテレパシーズ」
Modern Music / P.S.F. Records PSFD-14



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