"THINKING SOCIOLOGY" THEME :
ROCK MUSIC


「あの日は確かに熱かった」            ごりまつ 

 
夏のある日。本当はエレキ・ギターが欲しかった少年が、渋々手に入れたフォーク・ギター。その日から少年は、コード表を横目にぎこちなく指で弦を抑え、音色を確かめていく日々を送るが、当然の事ながらFコードに挫折。その挫折こそが、のちに少年の音に対しての感覚を目覚めさせる事になろうとは、お釈迦様でも知らぬが仏。

挫折を乗り越える事なくギターを部屋の装飾品に変えてしまった少年。根気、忍耐、粘り強さの欠片もない少年であったが、彼には運があった。近所に住む綺麗ではないがスタイルの良いお姉さんが、エレキ・ギター、アンプ、エフェクターの3点セットを無料で手渡してくれたのだ。

早速、少年はフォーク・ギターで挫折したのも忘れ、天にも昇るような気持ちで無印のレスポールを手にする。そして分からぬなりにアンプとディストーションを繋ぎ、うろ覚えのコードをジャンジャカジャン。アンプから響く、伸びのある歪んだ音に感動するのだった。そして挫折のきっかけFコード。フォーク・ギターに比べ、押さえ心地は楽なものの、不器用な少年は相変わらず、全ての弦を押さえる事はできなかった。しかしその中途半端に触れている弦を弾いたとたん、アンプから飛び出した「キ〜ン」という金属音が、まるで雷の矢のように少年の心に突き刺さった。そう、それが全ての始まりだった。

「カンカンカンカンカン・キンキンコンコン・キンキンキンキン...」まるで村の鍛冶屋のように、少年はギターを爪弾き続けた。そして次にチョーキング。しかもわざとチューニングをばらし、低音弦を弾く事で生まれる「ウォンウォン」と重い悪魔の笑い声に陶酔するのだった。
 少年の部屋にあったカセットデッキは仕組みこそは分からないものの、不思議と重ね録りが可能。テクニックなど欠片も持ち合わせていないが、リズム感には多少の自信を持っていた少年は、金属音と悪魔の笑い声とで即興の骨組みをテープに録音し始めた。そして中にバネが入っていると思われるマイクを畳に打ち付け、骨組みを強固なものにしていくのだった。

持っているエフェクターはディストーションのみ。しかしギター音に歪みを効かせるその装置は、少年がテープに録音した骨組みにはもって来いの代物だった。ふたつあるツマミを最大限に回し、ギターをムチャクチャにかき鳴らしつつ、少年は骨組みにノイズを絡めていく。更に物足りなさからエフェクターを追加。とうとうギター・シンセまでも購入した少年。しかし悲しいかな、そのギター・シンセサイザーは単音しか拾う事ができない。それがまた少年にとって、新たなる喜びをもたらす結果となったのだ。少年が購入したギター・シンセは単音しか拾えない。少年はそれが分かっていながら、すべての弦をジャンジャカとかき鳴らした。するとどうだろう。「ピーコロコロ」と不規則な感覚でスターウォーズのロボット「R2D2」の声がする。そしてオマケのようなディストーション・スイッチも押し、従来のノイズ音に重ねる。そして例の録音作業。

音作り、曲作り(?)には没頭するが、それでも少年はコードを覚えようとはしない。テクニックも磨こうともしない。だがしかし少年にとって、その作業こそがロックだった。何もかも忘れ、無我夢中で没頭する作業。それがロックだった。そこに努力はなかったが、下心もない。少年はただ純粋に音をロックを楽しんでいた。
誰が認める分けでなし。けれど少年はロッカー。ロック・アーチストであった。

 「おもろかったら、それでエエ!」
 
そうなんだ。みんな誰もがそうだったんだ。
父ちゃんも母ちゃんもネエちゃんもジイちゃんもバアちゃんも・・みんな誰もが何かに熱中してた「熱いあの日」は確かにロッカーだったんだ。


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