剛の者レポート:平成17年2月13日(日)「餅投げ」

●今日は久し振りにM氏宅に集まって、遊ぼうということになった。
1歳半になる子供を相棒に任せると、私は車に乗り込んだ。
寝不足の目を擦り、予定時刻の午後2時より遅れ気味でM氏宅に到着する。
家主のM氏、そしてT氏、K氏といういつもの野獣メンバーは既に集合済みだ。

●私が到着してすぐに、T氏によってある情報がもたらされた。
それは新築祝いの餅投げが、間もなくT氏の近所で行われるというのだ。
このミニお祭り情報に、野獣達は色めきだった!
寒さに躊躇する私を後目に、野獣達はもうすぐ戦利品となるであろう餅を収納するべく、各自ビニール袋を手にする。
・・・やる気満々である。

●餅投げは、様々な記念行事で行われる。
特に地域住民に身近な餅投げと言えば、新築の棟上げ等で行われるのが代表的だ。
また、餅投げは別称「餅奪(もちばい)」とも言われる。
参加経験のある方はもちろんのこと、参加経験の無い方もこの別称から迫力が想像できることだろう。
この餅投げ、何度か拾う側で参加したことがあるが、投げる側では2回(自宅と親戚宅)しか経験したことが無い。
初めて投げる事を体験したのは、小学校低学年の頃で、自宅の棟上げの時である。
その頃はまだ不況もなく、新築の二階には、投げ餅を沢山運び込み、また一〜二升位の大きな餅も数個用意された。
更に餅以外にも小さなリボンを付けた5円玉、色々なお菓子や袋ラーメン、タワシ等様々な日用品までが山積みにされた。
ビール瓶等は直接投げると危険なので、後に交換ということで代わりに木の札に「ビール」と書いて用意した。
ただ一つ気になったのは、七輪等で使う焼き網(鉄製)を木の札で代用することなく、直接投げたことだ・・・。
「縦に投げずに、横に落とすように投げろ」とだけ指示されて、小学生の私が投げた記憶がある。
一応、怪我人は出なかったと思うが、こんな物を殺気だった群衆の中に投げ入れろなんて、ある意味金網デスマッチである。

●餅投げの時刻が近付くと、自宅周囲の庭や畑には、噂を聞きつけた沢山の人々が集まって来ていた。
小学生の私がベランダに出ると、その沢山の人々の視線が一斉に集中する。「始まるのか!?」というギラギラした熱視線だ。
耐えきれずに、私はおずおずと部屋に戻ってしまう。
小学生の私にとって、その視線は多少トラウマになっているかもしれない・・・。

そして間もなくして餅投げの時刻となった。
合図と共に、二階から餅が一斉に投げ出される!
我先にと下に集まる人、人、人!!
そして餅を捉えようと力一杯広げられた手が、魑魅魍魎の如く何十本もこちらに向けられる!
「こっち、こっち!」と怒号混じりで餅を催促する人!
中には、大きなたも網を振り回し、空中キャッチしようとしている剛の者まで!!
もの凄い状況だ。口を開けて待っている雛鳥達・・・というような可愛らしさは全く無い!
飢えた野獣達に生肉を投げ入れる気分である。
これもまた小学生の私に、多少のトラウマを与えているかもしれない・・・。
その迫力に圧倒されていたが、ハッと我に返り、あることを思い出した。
友達から餅を自分たちに投げて欲しいと、前もって言われていたのである。
餅を片手に、私は必死に友達を捜し始めた。

どこだ? 友達はどこにいるんだ!?
この群衆の中にはいないのか!?
・・・あ、あそこに!?

友達は、この大人達の迫力に怖じ気づいたのか、畑の隅っこからこっちを呆然と眺めていた。
その距離、約20m。非力で運動音痴な小学生の私にとって、かなり厳しい距離だ。
しかし、迷っている暇は無い! 私は餅を持った手を力一杯振りかぶった!!
ピッチャーマウンド、いや二階から友達向けて投げられた餅は、私の希望とは裏腹にか弱く弧を描き、友達と群衆との中間地点に落下した。

・・・くそっ、届かない! 友よ、早く拾ってくれ!

だが、その餅に駆け寄ったのは友達ではなく、魑魅魍魎の小集団であった。
そして、私達の友情を嘲笑うかのように素早く奪い去って行った。

・・・友よ、私の非力を許しておくれ。

●そして、全ての餅が投げ終わり、屋根に引っかかった餅も落とし終わると、戦利品を手に人々は何処かへと去って行った・・・。
後には、無惨に踏み荒らされた畑や花壇と、中身が飛び出し砕け散った袋ラーメンの残骸だけが残されていた。
・・・恐ろしい。
なんという事だ。これはまさに恐怖の祭典である。
そう、剛の者のみにしか参加が許されない祭典なのだ。

●拾う側での記憶もいくつかある。
小さい頃は、親から「危ないから遠くにいなさい」と言われたが、中学生の頃、思い切って大人達に混じり参加してみた。
始まると、自分より背の高い大人達にラッシュアワー時の電車内の如く揉みくちゃにされ、落ちてきた餅を拾おうとすれば、その小さな手を危うく踏まれそうになる。
だが、注意を下や大人達にばかり向けていられない。
作られて間もない餅ならばいいが、時間が経った物は最早石ころ並の強度を誇る。
大人達の合間を縫って死角から突如現れる、餅という名の凶器。
脳天直撃、煌めくお星様。あの星座は、きっとオモチ座だ。
衝撃で小さな手からこぼれ落ちた餅は、容赦無く奪い取られ、恐怖と焦りの狭間で時間だけが無情に過ぎていった・・・。
最後の餅が投げ終わり、平常を取り戻した頃、私は1個か2個の餅をなんとか握っていたような気がする。
気が付けば、あちこちに擦り傷があった。

・・・これが餅投げというものか!
人生の荒波に投げ出されるということは、こういう事なのか!?

早くも人生の足取りが重くなる幼き日。
そんな訳で、私はいつもこの迫力に圧倒され、ほとんど餅を拾うことはできないのである。

●そんな思い出を回想している内に、餅投げが行われるという見ず知らずの新築の家に到着した。
・・・想像以上に人が集まっている。
最近は不況の為か、餅投げを行わないところも増えているので、餅に飢えた人々がここぞとばかりに集まっているのだろうか?
傍らでは、待ち時間を持て余した子供達が走り回ったり、川幅の狭い用水路を飛び越したりしている。
川に落ちても知らないぞ〜っと思っていると、予想通り一人落ちた。
こういう事に関しては、子供は期待を裏切らないものだ。
その子供は足から綺麗に落ちたので怪我は無いようだが、足下がびしょ濡れだ。
だが、川に落ちようが、まだ飛び越したりして遊んでいる子供もいるし、大人は特に気にした様子も無い。
・・・というより、大人はこれから始まる餅投げに首ったけ!?
目の奥には闘志の炎がっ!?
一見、普通のおじさんおばさんに見えて、ここにいる人達全員、餅に執念を燃やす剛の者なのかっ!?
私の背中に冷たい物が流れる・・・。

●そして運命の時間がやって来た!
餅を投げる人が、新築二階窓口に現れる!
待ってましたとばかりに、散らばって待機していた剛の者達が一斉にその下に密集!!
一気に人口過密!!
ここにどれだけの家庭が集中しているのかっ!?
高齢化社会や核家族問題もここでは関係無い!!
有無を言わさず、皆の期待の星である餅が放たれた!!
冬空に弧を描く、無数の餅!!
餅! 餅!! 餅っ!!!

もちぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいっっ!!!!!

こっちに投げろと要求するおじさん!
地面をカバーするおばさん!
長身の青年が私の前に割り込み、餅をインターセプト!
そんな貴方はバスケ部員!?
飛び交う餅と怒号と悲鳴と青春と思い出!

あああぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!!!!!

最初は数個ずつ投げられていた餅も、どんどん数量UP!
拾う方は、もっとヒートUP!
最早、混沌状態! 弾ける中高年!!
最後は、投げる方もヤケだ! 餅の入った木箱を振り回し、群衆の上にドバッと大放出!!
沸き上がる歓声と熱気の阿鼻叫喚!!
頭で考えるな! 本能で動けっ!! そこに餅がある限りっ!!!

うおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおっっ!!!!!

私の近くに餅が転がって来た!
手を伸ばす私、その横に小さな少年の手が!
一瞬ためらったが構わず拾う!!
許せ少年よ! 許せあの日の私よっ!! こんな大人を許してくれぇぇぇっっっ!!!

あああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・。

・・・永遠とも思われた時間。
全てはスローモーション・・・。
用意された投げ餅も底を尽き、最後の餅が投げ込まれた。
そして、熱気冷めやらぬ内に、剛の者達の祭典は終わりを告げる。
私はしばらくの間、放心状態で佇んでいた・・・。

●ふと我に返る。
私はポケットの中身を確認した。
恐怖におののいていた私がなんとか拾えたのは、餅2個、5円玉1個だった。
・・・ところで、野獣達は?
野獣達と合流する為、私は周囲を見渡した。人々が戦利品を手に家路へ急いでいる。
迷子になったか?と思っていると、彼らは意外とすぐ近くにいた。
合流すると、彼らは何やら不満をこぼしている。
何かと思えば、投げられた餅の数が少ないというのだ。
確かに、参加者数に比べ、餅の数が少なかったように思われる。
しかも、餅以外に投げられたのは5円玉だけ。
不況の為だろう仕方無い。餅投げ自体が行われたことに感謝しようと思う。
ところで、彼らの拾えた数を聞いてみた。

K氏、餅8個。
T氏、餅3個。

・・・野獣達にしては少ないだろうか?
いや、まだM氏がいる。

M氏、餅15個、5円玉1個。

これは流石である! 流石、我らが剛の者である!!
これでも餅が少ないと不満をこぼす、飽く無き餅への執着! 食への執念!!
惜しみない拍手を送ろう!
そしてしばらくの間、彼の食卓には餅が上り続けることであろう! ビバ、餅っ!!

●さて、帰ろうか。
そう踵を返そうとした時、用水路に人影が?
よく見ると、おばさんが長靴を履いて用水路内をうろうろしている。
その手には、餅が!?
用水路に落ちた餅を拾っていたのである。
長靴とは、なんて用意万端なんだ!?
というか、そんな所に落ちた餅を口にして大丈夫なのだろうか!?
そんな私の疑問に、K氏曰く「洗えば大丈夫」とのこと。
そうなのか・・・。本当に大丈夫なのか?
まぁ、剛の者同士にしか分からない食べれる微妙な判定があるのだろう。
最後の最後まで、剛の者を見せつけられた祭典であった。

●今回のレポートはこの辺にしたいと思う。
それではまた。この試練の部屋にて。


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