剛の者レポート:平成17年8月27日(土)「出産2」
●妊娠のお告げから後、酷い悪阻もあったが順調に経過した。
お腹もすっかり大きくなり、はち切れんばかりである。
予定日は25日であるが、まだ前兆は見られない。
余り胎児が大きくなりすぎると普通分娩が難しくなる為、このまま気配がなければ、誘発剤を使用して出産を促すことになりそうだ。
それでも困難な場合は帝王切開となるのだが、できれば自然に普通分娩となってほしいものである。
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●予定日から2日遅れの27日。 早朝、相棒に起こされる。 今日は久しぶりの休みということで、昨夜夜更かししていた為にかなり眠い。 寝ぼけ眼で時計を見ると、午前6時だ。 眠い・・・。 |
| 出産予定日当日の相棒 |
●再度眠りに入りそうな私に、相棒が何やら話しかける。
眠い目を擦り、ぼーっとした頭で相棒の話を整理する。
・・・約1時間程前から下腹部に締めつけるような感覚が、5分間隔位で来るようになって?
それで今、結構激しい痛みに変わってきた?
・・・それって・・・。
・・・陣痛かっ!?
眠気が吹き飛び、初産だったJr出産の時の記憶が蘇る。あの時は破水から始まり、出産まで半日程かかった。
今回は、まだ破水はしていないようなので、Jrの時よりも時間がかかるかもしれない。
今日は長い一日になりそうだ。
●取り敢えず、かかりつけの産婦人科に電話をする。
電話はすぐに繋がり、当直の看護師から痛みがどのくらいの間隔でくるのかと問われた。
時間を計ってみるが、2〜3分間程痛みが続き、その後30秒位痛みが引くという感じだろうか?
よく分からない。これは陣痛なのだろうか? それにしては間隔が狭すぎる気がする。
正確な時間はよく分からないが、痛みが短い間隔で来ているらしいことを看護師に伝えると、今から病院に来るように言われた。
早速、出発の準備を始める。
着替えを済ませ、別室で寝ている母に病院に行く旨を伝えると、まさに漫画のようにアクロバティックに母が飛び起きた。
思わず苦笑してしまった。そんなに慌てなくていいよと母に促す。
だが慌てたまま、母は早朝の野良仕事に出ている父を呼びに行ってしまった。
●相棒のもとへ戻ると、痛みが引く僅かな時間を利用し、二階の寝室から降りてきていた。
元々、入院する為の下準備はしてあったので、既に準備も整っているようである。
後は相棒を車に乗せ、病院へ向かうだけだ。
だが、相棒の様子がおかしい。
痛みの激しさが想像以上の早さで強くなってきているようだ。
痛みが来ている間はもとより、痛みが引いているであろう時も、動くことがままならなくなってきている。
これは急がなければいけない。そう頭の中で何かが告げる。
●私は、痛みでほとんど歩けない相棒をゆっくりと玄関から車まで連れていく。
途中、陣痛と思われる痛みに相棒が呻き、車庫近くで歩みが止まった。
もう少しで車に乗れる! 頑張るんだ!
妊娠特有のお腹の出っ張りが邪魔して、おんぶする事もできない。
肩を貸すようにするが、それでも歩くことが困難なようだ。
その時、父が野良仕事から急いで戻ってきたのが見えた。
父が車を私達の近くまで移動する。
しかし、門に阻まれてこれ以上は車を寄せられない。
相棒が痛みに耐えかね、崩れ落ちそうになる。
私は慌てて上半身を何とか抱えると、思い切って半ば引きずるように車まで移動した。
呻く相棒を何とか車の助手席に乗せると、私は後部座席に乗り込む。
元タクシードライバーである父は、任せろと言わんばかりに運転席に飛び込んだ。
私がまだ寝ているJrの事を母に頼むと同時に、父が勢い良くエンジンを噴かす。
そして病院へ向けて、車は急発進した。
●車中で相棒が呻く。
陣痛の痛みが、どんどん増しているようである。
初産の時は、出産に時間がかかったが、この様子だと今回は早いかもしれない。
アクセルを踏む父の足に力が入り、車が加速する。
「う゛ん゛ん゛ん゛んー!!」
相棒が痛みに耐えかね、息む。
私が慌てて、「力を入れるな!」と制す。
だが、相棒は自然に入ってしまう力を上手く逃がせないようだ。
その呻きを聞いてか、どんどんと車のスピードが上がる。
最初の交差点に差し掛かった。赤信号だ。
・・・って、速度を落とさず進入!?
そのまま左折!
・・・赤色・・・だったような?
気のせいか?
●車は猛スピードで走り続ける。
また交差点に差し掛かる。
今度こそ赤信号だ。
「ブオオォォン!」
構わず突入!?
確かに赤信号だった!
土曜日の早朝で、交通量が少ないとはいえ、心臓に悪い。
「う゛ん゛ん゛ん゛んーっ!!」
また相棒が息む。力を入れるんじゃない!
力を抜いて! お願い、車のスピードが上がるから!
ふと、前を走る車との車間距離がどんどんと狭まってくる。
前を走る車は、特に遅い訳ではないが・・・。
そしてエンジンが唸りを上げたかと思うと、私達を乗せた車は一気に対向車線に飛び出し、前の車を追い越した!
もはや鈴鹿サーキットさながら、一人カーレース状態である!
●相棒の呼吸が浅い。
額に汗が滲む。今日ほど病院が遠くに感じることはない。
ふと、相棒が苦悶の表情を浮かべ、息む。
「出るーーー!!」
出る!?
何が!? 何で!? 何いぃーーーっ!?
まだ早いってー!!
切り札は最後まで取っておけっ!?
まだ出すなーーーっ!!!
「息むな! 力を逃がせ! もうすぐ病院に着くぞっ!」
相棒の呻きと、私の叫びを乗せ、車は更にヒートアップ!!
またまた交差点だ!
しかもやっぱり赤信号!
その赤信号で交差点前には車が止まってるし、見通しも悪いぞ!
と思うのも束の間、前方で止まっている車を追い越し、交差点に進入!
そのまま流れるように右折!
あああっ!!
右から対向車がっ!!??
ぶつかるっ!!!
・・・何とか交わして交差点を抜けた!?
半分涙目の私を余所に、元タクシードライバーの父の運転が炸裂する!
私の心臓が持つのだろうか!?
無事に病院まで辿り着けるのだろうか!?
●また相棒が息む。
「出るーーーっ!!」
待て待て待て待て待てーーーっ!!!
だから、まだ早いってー!
力を入れるな、抑えとけー!!
私は魂が出そうだーーーっ!!!
もうすぐ病院だ!
大きな交差点に差し掛かった。
片側2車線で計4車線の大きな道路が左右に伸びる交差点だ。
父に「もう病院が近いから無茶しなくていいからね!」と諭す。
その言葉に父が応えたように思う。
赤信号だ。車のスピードが落ちた・・・と思った瞬間!
信じられない光景が!
その交差点へ突入!?
左右4車線から車がっ!!
アドレナリン異常分泌!!!
ぎぃゃあああぁぁぁぁぁああああっっっ!!!
これは夢かっ!?
夢に違いない!
たぶん夢だ!!
夢だといいな!!!
夢だと言ってください!!!!!
お願いします神様!!
救急車にしとけばよかったああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・!!!
「ブオオォォーーーン!」
・・・生きてる?
・・・事故ってない?
ありがとう神様!!
そして、ご免なさい他の車の人達! 今だけは許してー!!
感謝と謝罪の念が入り交じる中、通り過ぎた交差点を振り返らないように前を見据えた。
相棒が息む。
「出るーーーっ!!」
いやああぁぁぁぁあっ!
もうちょっと待ってーっ!!
ほら! もう病院が見えてきたぞー!
病院まで目の前だ!
そしてほっと一息付きかけた瞬間、当たり前のように車は左折した。
何ぃぃぃっ!?
病院に近道とはいえ、ここは一方通行で逆走である!
最後まで気の抜けないドライバーテクニック!!
と言うか、これはドライバーテクニックなのか!?
流石、元タクシードライバー!?
これはもう剛の者としか言いようがない!
爆走、剛の者ドライバーここにありっ!!
●何とか事故を起こさず、病院に着くことができた。
だが相棒は激しい陣痛の為、車から降りることができない様子である。
下手に手を貸すと息んでしまい、上手く車から降ろすことができない。
慌てて病院内に待機している看護師へ連絡し、救援を求めた。
飛び出てきた看護師に手伝ってもらって分娩室へと急行する。
流石は専門職の看護師である。相棒を励まし、何とか連れていく。
相棒が分娩室に入るのを見送ると、父と私とは、ほ〜っと息を付き、待合室の長椅子に腰掛けた。
●休憩しようと思う間もなく、私は看護師に呼ばれた。
予め立ち会い出産をする事を伝えていたので、呼ばれたのである。
早朝のカーアクションに余韻さめやらぬ足取りで、私は分娩室へと向かった。
Jrの時は、途中からの立ち会いだったが、今回は初めから立ち会うので少し気合いを入れる。
前回は出産に半日程かかった。今回は早いだろうが、やはりある程度時間はかかるだろう。
そんな事を考えつつ手を消毒し、分娩室に入ると、医師と看護師達が相棒を取り囲んでいた。
そして、看護師達が慌ただしく動いている!
その現場の雰囲気に心拍数急上昇! 高まる緊張感!
私は何をすればいいのだろうか!?
●陣痛が長時間に及んだ前回に比べ、まだ体力があるのか相棒の意識はしっかりしている様子だ。
取り敢えず、相棒の手を握ってやる。
すると相棒の息み唸る声と共に、掴んでいる手に力が入るってくる!
「う゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーーーっ!!」
いででででっ!?
相棒の爪が手に食い込む!
更に相棒がもうひと息み!
んっ!?
あ、あれは、・・・赤ん坊の頭!?
もう出たの!?
早っ、早過ぎっ!!!!!
早過ぎです! 心構えがまだ十分にできていません!
ちょっと待ってーーー!!!
と言う間もなく、次の陣痛の波に合わせ、最後のひと息み!!
「う゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーーーっ!!」
・・・出たっ!!
出ましたっ!!
赤ん坊が出てきましたっ!!!
へその緒が邪魔ではっきり確認できませんが、どうやら女の子です!!!
「おぎゃあ! おぎゃぁぁぁっ!」
へその緒を切る前から泣き始めました!
なんて元気なんだ!
そしてなんて早い出産であろう!
●そして、医師がへその緒を切る。
平成17年8月27日、午前7時7分出生。
体重3,282グラム。性別、女。
午前6時頃に陣痛の始まった相棒に起こされ、その僅か1時間後の出産である。
想像以上の短い時間であり、父の剛の者ぶりを見せつけられた1時間でもあった。
早朝から濃い一日の始まりである。
だが、はっきり言ってすでにくたくたで、一日分のパワーを使い切った感じだ。
後処置の為、私は分娩室から出される。
待合室へ戻ると、父に産まれた事を報告した。
父もほっとした様子だが、想像以上の早さに私と同じように苦笑いしていた。
もし、もう少し家を出るのが遅れていたら、病院に着くのに手間取っていたら、車中での出産となっていたかもしれないのだ。
そうなっていたら、車内アナウンスで産婆か医者を募らなければならない。
●父は、母に産まれた事を連絡する為、携帯電話を持って出ていく。
私は、待合室の長椅子に力無く腰掛けた。くたくたである。
しばらく時間が経った後、後処置が終わったのか看護師に呼ばれた。
無菌服のようなものを着せられると、再度分娩室へ入る。
中に入ると、相棒と赤ん坊がいた。
激しい陣痛から出産まで1時間程だったので、体力の消耗も少なかったのか相棒は元気そうである。
| ●さっきまで鳴き声を上げていた赤ん坊も、落ち着いたのか静かに寝ている様子だ。 無事、交通事故も車中出産も無く、元気に産まれてきたことに感謝である。 また、大きな仕事をやり遂げた相棒にも感謝である。 これでJrも兄になるのかと思うと、何だか感慨深い。 |
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| 相棒と産まれたばかりの赤ん坊 |
●さて、これから名前を決めなければならない。
実は赤ん坊の性別については、前回の轍を踏まぬよう早めにエコー診断で聞いていたのだ。
従って、名前もいくつか考えてある。
その内の一つは、ずばり「ウエタガール」!!
正義の味方として、その名を世界に轟かすのだ!
赤いエプロンを身にまとい、瓦センベイを作れるように、料理力を鍛えなければ!
待ってろ娘よ! 退院したら、花嫁修業だっ!
でも、誰にも嫁にはやらんっ!!
約束だっ!!!
●今回のレポートはこの辺にしたいと思う。
それではまた。この試練の部屋にて。