「ふう、大体打ち終えたかな。」 「…随分大雑把だがな…。」 仕方ない、とカミューが金槌片手に笑顔を向けた。 「今日はもう日が暮れる。また明日始めよう…時間はいくらでもあるのだから」 俺は相槌を打つ代わりに微笑み返した。 そう、時間はいくらでもある。 カミューを追いかけてロックアックスを出てからすでに3ヶ月が経過していた。 カミューと合流できたのは、グラスランドの領地を目前に控える草原だった。 見るもの全てが初めての土地。空気も風も知らない匂いがする。広い緑に点在する独特の集落。 カミューは俺の手を引いてくれた。 これが私の故郷だよ。 カミューの故郷。そしてこれからは俺の故郷。 カミューは馴染の土地を俺に案内すると、改めて俺の目を見つめてこう告げた。 「一緒に暮らそう。」 それは、このまま気侭に旅を続けるのとは意味合いが違っていた。 長くか短くか、どのくらいかは判らないが、どこかに腰を落ち着けようというのだ。 俺達が見つけたのは、歩行では多少困難な山を抜けたところにぽつりと残された、小さな廃屋だった。 人が住んでいたのは随分前のことだろう、壁は腐り落ちて屋根もはがれかっている。半分外れている扉を開くと、獣達が四方八方に飛び出していった。 しかし土台はしっかりしていたので、壁や屋根を貼り替え、床を修理して掃除をすれば使えるようになると言ったのはカミュー。何だかとても楽しそうだった。 カミューがあんまり嬉しそうなので、俺も嬉しくなった。そうして、“俺達の家”の修復作業が始まったのだ。 この場所は馬で飛ばしても最寄りの町まで4時間はかかる。 必要な材料を買いそろえ、再び戻ってくる頃にはほぼ日が暮れる。そうしたらその日は何もせずに眠ったりした。 無駄に時間を使うことがこんなに楽しい。 目が覚めたらカミューを起こす。朝食はそれから調達する。家の修理。慣れない道具を使うことでペースはとても遅い。それでも、楽しかった。 作業に疲れたら草原に寝転がって雲を数えた。近くの森に散歩に出かけた。カミューはいろんな草木の名前を教えてくれる。小さな湖も見つけた。子供みたいに二人ではしゃいだ。 時間なんて関係ない。 カミューはここに来てから「愛してる」と言わなくなった。 言う必要がなくなったから。 この場所には俺達しかいない。誰にも邪魔されない二人だけの空間を、 俺達は、息をするように当たり前に過ごしている。 「明日はペンキを買ってこようか。このままじゃ壁がちょっと淋しいからね。」 「それより、屋根はどうするのだ? このままでは雨が来たらひとたまりもないぞ。」 カミューは楽しそうにくつくつと笑う。 ここに来てから何度も見るカミューの笑顔。俺の好きな笑顔。 「大丈夫、しばらく雨はこないよ。それより、今夜は中で眠ろうか。星が綺麗だよ」 俺も思わず吹き出してしまった。 ぽっかり半分、空に口を開けた屋根。そうだな、家の中で天体観測ができる。 「雨が来るのは来週だ。屋根はそれまでに直そう。」 「いつも思うが、よく判るな。」 「そのうちマイクロトフも判るようになるよ。」 この土地の人間として。 俺は目を細めて笑った。カミューの好きな俺の笑顔。 俺は愛されていることを考えなくなった。 だってそれは息をするように当たり前のことだから。 カミューが俺に手を伸ばす。それに応えて目を閉じる。 俺達は当たり前のようにキスをした。 風が不規則にざわざわと音を立てる。うるさいくらいの虫の声。空の星は今にも落ちてきそうな輝き。 愛しい人。 俺の腰の辺りで踞っている黒い頭に手を伸ばす。柔らかい髪を、そっと撫でた。 ぎこちなく俺の身体の中心部をくわえ、おずおずと舌を這わせる優しい愛撫。 俺は髪を撫で続けた。 「…上手になったね……」 マイクロトフは答えずに、更に喉の奥へとそれを含んだ。吐息が漏れる。 何もかも俺が教えた。受け入れることを知らない身体が開くようになるまで。 それでも以前は随分嫌がっていたものだ。触れられるだけではなく、触れることにも抵抗があるようだった。想いが伝わっていないようで初めはもどかしかったが、ここに来てその理由が何となく判った気がする。 丁寧に舌で舐めあげられて、少し限界が見えた俺は、そっとマイクロトフを促した。 「もう、いいよ。」 おいで、と腕を広げると、気恥ずかしそうに肌を寄せて、小さなキスを落としてくる。あんまり可愛らしくてその頭を掻き抱いた。 「カミュー」 熱に浮かされたように俺の名前を零す唇を塞ぐ。柔らかくて温かい舌を探す。相変わらず舌先をちょん、と合わせるだけの仕草が何とも言えない。 本当に食べてしまおうか。 白い首筋にやんわり噛みついた。あ、と声をあげるマイクロトフの身体をそのまま倒し、鎖骨からヘソまで一気に唇で駆け抜ける。 太股の辺りを唇で触れながら滑り、既に形を変え始めているそれをも掠めてゆく。微妙な箇所を過ぎる度にぴくぴくとマイクロトフの身体が揺れる。 「あ……う…ん」 声を出すことを拒まなくなったマイクロトフ。与える愛撫に素直に反応する。 押さえる必要がなくなったから。 だってこうすることは呼吸と同じ。当たり前のように行うこと。 意識しすぎていたから、今まで少し息苦しかったんだね。 俺は無駄な肉のない両脚を抱え上げ、双丘の最奥にある小さな蕾を月明かりの中照らし出した。 マイクロトフは恥ずかしそうに身を捩るが、脚を閉じようとはしない。 そこは初めて触れた時のような堅い蕾ではなく、何度となく俺を受け入れたためまるで花弁が開きかかっているかのように解れていた。 俺がそうさせた。男を受け入れられる身体に変えた。 以前は可愛らしく蕾んでいたひだが、今でははみ出るように緩んでいるそこに唇を寄せる。 「あうっ…」 軽く探るだけで舌はするりと奥まで滑り込んでしまう。内壁を優しく刺激して、その締めつけ具合を確認してから舌を抜いた。 マイクロトフを見下ろすと、喘ぎに潤んだ瞳と視線がぶつかった。そっと顔を近づけ、触れるだけの小さなキス。間を置いて深く口付けを落とし、開かせた脚を更に押し開いた。 「あ…あ…、あ…!」 華を開いた蕾に熱く猛った自分自身を押し当てると、待ちきれないその場所がヒクヒクと収縮する。先端はあっさりと中に侵入する。完全に受け入れてからきつく締めつけることを身体で覚えてしまったマイクロトフは、最奥への訪れを待ち侘びて腰を揺らした。 俺は両脚から手を離すと、丸みのない双丘を乱暴に掴んで引き寄せた。 「はあんっ!」 深くつながった場所がぐちゅ、と音を立てた。 叩き付けるように腰を動かすと、その動きに合わせてマイクロトフの背中ものけ反る。自由になった両脚を自分から大きく開き、その指先が天の星に向かって高く伸ばされていた。 「あう、ううっ、あ、ああ…っ」 マイクロトフの腕が伸びる。 その手を掴んで噛みつくようにキスした。 「うんっ、か、みゅ…う、」 「……マイク…」 「カミュー、か…みゅ…」 「マイクっ…」 愛の言葉はいらない。 だってこうして唇を合わせることも、 身体を重ねることも、 愛し合うことも、 呼吸をするより当たり前のことだろう? 「ああーっ、カミュー!」 熱い痺れが絶頂を訴えて、蕾がぎゅうっと俺の肉を噛んだ。 すかさず俺は宙に浮いたマイクロトフの脚を捕らえ、ぐいっと自分の方に引き寄せて膝を伸ばしてやる。それに呼応して大きく跳ね上がったマイクロトフの身体の中央から、鼻につく臭いの液体がほとばしった。 瞬間の強い締めつけに、己もつながったまま欲望の象徴を吐き出す。 受け止めきれずに隙間から溢れ出した濁った液が、ぐちゃり、とお互いに絡みついた。 虫の声は鳴りやまない。明かりがないのに眩しすぎる夜空。 ぼんやり星座を数えるマイクロトフの頭を抱き寄せ、汗ばんだ額に口付けを落とした。 熱に浮かされたような目で見上げてくる彼は、お返しのように頬にキスをひとつくれた。 そして、いつものように肩に頭を乗せてくる。マイクロトフの定位置。柔らかい髪が首筋をくすぐるいつもの感触。 「…寒くない…?」 「ああ…、平気だ……。」 季節が違っていたらこうはいかないな、と肌を寄せた。屋根はないし壁は隙間があるし、裸で眠るなんてとてもじゃないが無理そうだ。グラスランドが夏で良かった。 「明日は壁と屋根と、できたら床も直したいなあ」 「それはいいが、そろそろ有り金が少なくなってきたぞ。食料を買ったらペンキが買えなくなるんじゃないか?」 「じゃあ、町に行くとき少し回り道してモンスターを探そう。朝食後の軽い運動にもなるし」 「そうだな、そのためにはカミューが早起きしないとな。」 う、と言葉を詰まらせると、マイクロトフが楽しそうにすり寄ってきた。 私も楽しくなってマイクロトフをぎゅうっと抱き寄せる。二人でくすくす忍び笑いして、笑った顔のまま小さなキスを繰り返した。 誰もいない場所、聞こえるのは虫の声。時折風が呆れたように、私達の身体を撫でて行く。 月は大きな顔で地上を見下ろしていたが、私達はその存在を気にすることはなかった。 明日目が覚めたら朝食の支度をして、馬に跨がって町まで山を越えて。用事を済ませたら、またここに戻ってペンキを塗ろう。疲れたら二人で寝転がって、この前見つけた湖で遊ぶのもいい、散歩がてら木の実なんかを探して来よう。 ここでの暮らしに飽きたらまた新しい家を探せばいい。必要なのはマイクロトフがいること、私がいること、それだけで間違いはないのだから。 これからはここが俺の故郷。 私の故郷。そしてこれからは二人の故郷。 急ぐことはない、時間は余るほどある。ゆっくり、のんびり、無駄に時間を使って過ごそう。 急いだら呼吸が乱れる。考えすぎると苦しくなる。だから、私達にはこのことだけ判っていればそれでいい。 息をするように当たり前に過ごすこと。 それで充分。 マイクロトフの額にこつり、と自分の額を合わせた。マイクロトフが瞬きをしながら顔を上げる。 私たちは、当たり前のようにキスをした。 |
DAYBREAKのLASS様の元へお嫁にいったSS。
リクは「砂吐き甘々裏有り」でした。
なんちゅうか、かゆくてこっ恥ずかしいものになりました。
しかし理想でもある。
そしてマイクはガバガ…ゲフン!