Goodbye stranger it's been nice. Hope you find your paradise. その日の朝は早かった。 *** 太陽が真上に昇る頃には、大地の温度も出発時とは比べ物にならないくらいに熱を膿んでいた。 その街は小さかったが、疲れた馬の脚を休めるには、自分も含めて喉の乾きを潤すには充分だった。 旅人が立ち寄ることが多いのか、数件並んだ店ではそれなりの装備が補充出来そうだった。 一呼吸入れるつもりで、マイクロトフは太陽の元ずっと被っていたフードを外した。 「遠くから来たね。」 腰を下ろした茶屋で、飲み物を運んで来た中年の女性がなまりのある言葉でそう言った。 「分かりますか」 「この辺りに黒髪はいないよ」 だからフードを外してから自分を振り返る人間が増えたのか。マイクロトフは微笑で応えた。 「上のほうから来たのかい。鼻の頭が真っ赤になっちまってるねえ」 言われてそっと触れてみれば、ぴりっとした痺れのような痛みを感じる。 陽に焼け過ぎて軽い火傷になっているようだ。 「薬を持ってきてあげるよ」 「すいません」 ちょっと待ってな、と女性が店の奥に引っ込み、マイクロトフは暫し冷えた飲み物を含みながらぼんやりと視線を巡らせていた。 生まれ育った国を出てから、これで何日目になっただろうか。 道程が長くなる程に暑くなる大気と共に、胸の高鳴りも強くなる。 あと幾日進むのだろうか。 「ほら、塗っときな。まだ暫く行くのかい。」 「ええ、もう少し下るつもりです」 「こっから先は険しいよ。一人旅だと何かと不憫だろうに」 「……いえ、先に独りで越えて行った奴がいるのです。大丈夫ですよ」 そうかい、と相槌を打つ女性は対して興味がないようだった。 マイクロトフは受け取った塗り薬を鼻の頭に擦り込んで、丁寧に御礼を告げる。 「それでは、そろそろ出ます」 「気につけて行きな」 「有難うございます」 旅人の出発に慣れた面持ちの女性に見送られ、マイクロトフは店を出た。 さて、もう一歩き。 愛馬は少し不服そうだったが、その身体を優しく叩いて宥めてやる。 「すまんな、もう少し行こう。明日になると天気が崩れる」 進める内に行けるところまで行こう。 彼にできて俺にできない筈がない。 マイクロトフは力強く馬に跨がった。 国を出てから何日経っただろうか、不粋な男を追いかけて。 大地はますます暑くなり、この胸もじわじと熱くなる。 とうに迷いは消えた。 追うなと言うのならば、その手で息の根をとめてもらおうか。 「逃がさんぞ」 たとえ幾日過ぎようとも。 *** 陽もくれる茜の空、半円の光を崖の頂上から馬と共に見下ろした。 この景色は彼も眺めたに違いない――震えを覚える程の強烈な確信に、この崖を夜になるまでに越えて見せようとマイクロトフは手綱に力を込めた。 きっともうすぐだ。 燃える空に馬の嘶きがひとつ。 Goodbye stranger it's been nice. Hope your dreams will all come true. |
暑中お見舞いという文ではありませんが、御挨拶の気持ちを込めて。
今年は暑い夏が多いようです。お体にはお気をつけて…
これからもよろしくお願い致します。
2001.08.06 蒼玻玲拝
↑当時の文そのまま残してみました。
ちょっと暑苦しい青騎士団長。これは赤でも逃げられん。
案外気に入ってたお話です。