彼が店に現れなくなってから早2ヶ月半が過ぎた。 あれ以来私は仕事に身が入らず、この前はパーマ液とブリーチを間違えて茶髪の兄ちゃんを白髪にしてしまった。 来る客を片っ端からあの短髪黒髪カットに(勝手に)してみたりもしたが、あのヘアースタイルが完璧に似合うのはやはり彼だけだった。 もうハサミを持つのをやめてしまおうか……半ば自棄になっていた矢先。 彼が店に飛び込んで来たのだ。 しかもああ、なんて事だろう! 彼の襟足は2センチ近くも伸びて首を被い、あろうことか前髪が、前髪が眉毛に達しているではないか!! 「お客さま……!」 カット途中の客を放り出して私は彼の元に駆け寄った。 彼は肩で荒く息をしながら、 「すまなかった……!」 とがっくり頭を垂れる。 「俺が意地を貼ったばかりに、髪が、髪がこんなに伸びてしまって……!」 「何を言うのです、私が余計なことを言ったから……! さあ、今すぐその伸びた髪を私が……!」 彼は目尻をそっと指先で拭いながら頷くと、 「今日は……眉もお前に託そうと思って来た……」 「……お客さま!!」 「昔から触れたことのない聖域として守ってきたが……お前になら任せられる。今日は髪と眉のカットを……!」 「……かしこまりました!」 そして私は2ヶ月半ぶりの彼の髪に触れ、至福の時を味わった。 いつも通りのヘアースタイルに整えた後、いよいよ禁断の聖域に踏み込むこととなった。 しかし、運命の悪戯か、極度に緊張していた私は、私は、ああ、彼の命の眉毛を半分切り落としてしまったのだ……! あれから再び2ヶ月が過ぎたが、彼がこの店にやって来ることはなかった。 私は自分の未熟さを呪った。 |
最悪だ……