貼りついた前髪を指先で掬い上げ、頭に撫で付けて額に口付けると湿った汗の感触があった。マッシュはそのままエドガーの頭を抱えて引き寄せ、エドガーはマッシュの厚みのある肩に口付けられた額を乗せる。 二人は下肢に衣服を身につけておらず、マッシュの太腿に跨るエドガーは弟の腰に足を巻きつけて、左手はマッシュに縋り右手は重ね合わされた二人の勃ち上がったものを握らされ、更にその手を上からマッシュの大きな手が包んでいた。 二人の手は怒張したものを上下に扱き、その先端から溢れ出る粘液に指を濡らして薄闇に光らせている。短く浅い呼吸が響くベッドの上でその手の動きは徐々に早くなり、マッシュが肩に感じるエドガーの額の圧も強くなった。 エドガーの手ごと二人のものを掴むマッシュの手に力がこもり、エドガーの口から吐息だけではない喘ぎの息が漏れる。切なげに額を擦り付けてくるエドガーに限界が近いことを察し、マッシュはエドガーの手を引きずるようにやや強引に扱き上げた。 は、と大きくエドガーが息をついた瞬間二人の手の中から白く濁った液体が溢れて、受けきれなかったものが指の隙間から飛び出してくる。刺激を高めるためか最後に一際きつくエドガーが握り締めたため、マッシュもすぐに果てた。 はあ、はあとしばし荒い呼吸だけが交わされ、やがてマッシュが再び頭を起こしたエドガーの額に口付けるとエドガーもマッシュの唇に柔らかくキスを返す。そのままマッシュの鎖骨に頬を埋めたエドガーを抱き留め、二人は事後の余韻に浸っていた。 汚れた指をシーツに擦りつけたエドガーは満足げにマッシュに体を預けて瞳を閉じているが、しかしマッシュとしては少々の物足りなさを感じていた。 十年ぶりに再会してからこうして愛を確かめ合うのは一度や二度ではなかったが、エドガーは大体扱いたり扱かれたりして精を吐き出せば満足してしまう。その続きを求めてこないエドガーが少しもどかしい。できれば触り合うだけでなく深いところで繋がりたいのだが、エドガーは同じ気持ちではないのだろうか……繋がっている姿を想像してつい下腹部のものが緩く勃ち上がってしまい、マッシュの太腿に跨ったままだったエドガーが少し戸惑うように下を向いた。 「……足りないのか?」 「う、ん……まあ」 「……口で、するか?」 吐息で乾いた薄紅の唇でそんなことを尋ねられると心が大きくグラつくが、マッシュは思い切ってかねてからの望みを伝えることにした。 「あの、さ。できれば……挿れたい、んだけど」 「……? 何を?」 「その、ナニを」 「……、どこに?」 気恥ずかしさに頬を赤らめてぼそぼそ告げるマッシュに対し、エドガーは不可解を絵に描いたように眉を寄せて本気で分からないといった顔をしている。はぐらかされているのだろうかと、マッシュはエドガーの態度に焦れてそっと指をエドガーの腰に回した。 「……ここに」 囁きながら引き締まった双丘の一番奥を掠めるように中指の腹で撫でると、びくりとエドガーの体が跳ねた。 その反応の大きさに驚いて思わずエドガーの顔を見ると、エドガーもまた驚きに目を見開いて固まっている。やがてその白い頬がさっと赤く染まり、マッシュから距離を取るように腕を突っぱねた。 「な、何言ってる。入るわけないだろう」 エドガーの言葉にやはりダメか、とマッシュは肩を落としかけたが、入るわけがないという否定に若干の引っかかりも感じて首を傾げる。 「あのさ、兄貴」 「なんだ」 「セックスって知ってるよな?」 エドガーが頬を染めたままあからさまに顔を歪めた。 「あ、当たり前だろう! 馬鹿にしてるのか」 「してないよ。俺、兄貴とセックスしたいんだ」 もう自棄だと、恥を忍んでストレートに希望を伝えると、更に顔を赤くしたエドガーがマッシュから顔を逸らしてごにょごにょと零した。 「し、してるだろ。今だって」 「だから触りっこだけじゃなくて、挿れてしたいんだよ」 「無茶言うな、男同士なんだから」 エドガーに詰め寄っていたマッシュは動きを止め、つい真顔でエドガーを見つめる。エドガーは珍しく耳まで赤くなって余裕のない様子だが、ごまかそうとしているようには見えなかった。 マッシュは素直に驚いた。自らを顧みれば、そういった知識がつき始めたのは城を出る前ではあったものの、具体的に理解したのは兄弟子にあれこれと吹き込まれてからだ。マッシュがいなければ年頃のエドガーは一体誰とそんな話ができようか。いや、それどころか。 「兄貴、セックスしたことないだろ……」 これ以上ないほど真っ赤になったエドガーは何かを言い返そうとしたのか口を開けるが、言葉が出てくることはなかった。その様子でマッシュは全てを理解する。 母に一途だった父王は、生涯一人の女性を愛しなさいと子供だった自分たちに説くことがあった。その姿は確かに二人にとって男らしく憧れであったし、格好良く見えたものだ。 エドガーは女性に礼儀と称して甘い言葉を投げかけるが、言わば挨拶のようなものでそれ以上深入りすることはない。生涯の一人を探しているうちに半身とも言える血の繋がった相手を選んでしまったのだから、根が真面目なエドガーは火遊びを経験し損なったのだろう。 ──だから触るだけでいつも満足していたのか。挿れられることを望まないにしても、挿れる快楽を知らないからその欲求がなかったのだ。男女間のなんとなくの知識はあっても経験がなければその先の形を想像できないのは仕方がないのかもしれない。 そもそも触り合いも口淫も最初に誘ったのはマッシュだった。初めこそ躊躇っていたエドガーだったが、それが気持ち良いと分かるとエドガーからも強請ってくるようになった。兄は知らないだけなのだ── マッシュはごくりと喉を鳴らし、仰け反るようにマッシュから離れかかっていたエドガーの目を真剣な顔で捉えた。 「兄貴。……男同士でも、できるよ」 「えっ?」 ぐいっとエドガーの腕を掴んで引き寄せ、その体を胸で受け止めて、再び指を腰の下に滑らせた。 「っ……」 ぎゅっと硬くなったエドガーを離さず、こじ開けてしまいたいその場所に中指を押し当てた。抵抗しようとする腕を押さえ込んで耳元に唇を寄せ、低く囁く。 「ここ。ここで、するんだよ」 「う、嘘だろ」 「嘘じゃないよ。……ここに、挿れたい」 同時に耳を食むと掴んでいるエドガーの腕が総毛立ったのを感じた。エドガーは明らかに戸惑いながら、抑え込まれて自由が利かない中で自分の尻の奥に触れているマッシュの指の方向とマッシュの腹の下のものを交互に見て、首を横に振った。 「む、無理だ」 「無理じゃないって。ちゃんと慣らすから」 「慣らすって……」 「大丈夫」 先ほど精で汚れた指はベタついてはいたが乾いていたため、マッシュは抱き寄せたエドガーの体を力任せに押し倒して無骨な指を舐め、仰向けに転がったエドガーの脚を抱えて中枢にその指を押し当てた。 「うっ……」 エドガーが呻く。マッシュの太い指を押し戻すその場所は酷くきつい。もう一度指を舐めて入り口を擽るが、このまま中に押し入ると痛みが勝りそうで、マッシュはエドガーの膝を折らせて無理やり脚を広げさせた。反射的に閉じようとする動きを力づくでこじ開け、その奥に直接的顔を埋める。 「! ば、馬鹿、やめろっ……んんっ……」 しっかりと締まった蕾に舌を差し込み、掻き回すように解していく。怖気付いて引き気味の腰を持ち上げると両脚が頭を締め付けてくる。構わずに舌を動かせば、あ、あ、とエドガーが小さく嬌声を上げた。 「やめ、マッシュ、汚いっ……」 抗議の声を無視して、差し込んだ舌で内壁をぐるりと広げるように抉る。唾液で濡れた蕾が少し柔らかくなったのを感じて、マッシュは舌の横から中指の先を潜り込ませた。 「痛っ……」 エドガーが再び呻いた。 まだ第一関節もやっと入るくらいで、舌を抜いたマッシュはしっとりと濡れたその場所を指の腹で優しく押し拡げていく。 エドガーは訴えは受け入れられず力でも敵わず、未だに状況が飲み込めない様子でひたすら体を強張らせていた。それに気づいたマッシュが奥に埋めた指はそのままに、もう片方の手ですっかり萎んでしまっているエドガー自身を握る。エドガーの腰がびくんと揺れた。 「兄貴、力抜いてくれ……指が千切れそうだ」 「そ、んなこと、言ったって……あっ……」 エドガーのものを扱きながら指を進めていくと、手の中で少しずつ硬度を増すそれがゆったり頭を擡げ、きゅうきゅうに指を締め付けていた部分の力が緩んだ。マッシュはあえて急がずにじわじわと指を潜らせて、無理のないように、しかし確実に奥を探っていく。 エドガーはすでに抵抗を諦めたのか、腕を目に押し当てて半開きの口で浅い呼吸を取り込むのに必死になっている。時折その口から掠れた甘い声が零れ落ち、マッシュはエドガーがあまり痛みを感じなくなっていることを理解した。 扱く速度を上げながら指を進め、エドガーの秘部が中指を根元まで飲み込んだ時、指先が掠った肉の壁の一点がエドガーの脚を跳ねさせた。途端にマッシュが握るエドガー自身が一気に硬くなり、マッシュは指先を細かく動かしてその場所を擦る。 「あ、あ、あ! ダメだ、それ、抜いてっ……くれ……っ!」 エドガーが自分の頭を抱えて金糸のような髪を掻き毟る。マッシュの指は止まらず、ひあ、と悲鳴のような高い声を上げたエドガーはあっという間に果てた。先ほど出したばかりの白く濁った液が再びエドガーの腹を濡らし、マッシュの指が入ったままのそこはヒクヒクと震えて指に絡みつくように余韻を感じている。 エドガーの瞳からは涙が零れ落ちていた。唇の端からも唾液が垂れ落ちて拭おうともせず、荒い息で放心したようにぼんやりと宙を見ている。 エドガーがピクリとも動かないので、獣のように荒々しい気持ちだったマッシュも徐々に冷静になってきた。 「……兄貴」 慌てて指を抜くとエドガーがビクッと脚を縮める。潤んで蕩けた瞳がマッシュを見つめ、何か言おうとしたのか唇が僅かに動いたが、声にはならなかった。 マッシュは急いでエドガーの上半身を抱き起こし、胸に凭れさせる。乱れた呼吸のエドガーの頭を抱き締めて、髪を優しく撫でた。 「兄貴、ごめん……無理させた……」 「……死ぬ、かと、思った」 掠れた声だが確かに聞こえた呟きに幾分か安堵し、額、こめかみ、濡れた瞼にキスを落とす。 「ごめん。怖かったな」 「怖い、わけが」 この状態でも兄としてのプライドが許さないのか強がりを言うエドガーに苦笑し、先に進むのは難しそうだと細く長いため息をついた。 |