Cherry Lesson 2




 エドガーは悩んでいた。


 静まり返った夜半の飛空艇、ベッドに横になり何度目か分からない寝返りを打ったエドガーは、大きくため息をついて仕方なく体を起こす。
 灯りを落としてもうしばらく経つのだが、一向に眠れずにいる。水でも飲んでくるかとベッドを抜け出し、ガウンを羽織って部屋を出た。


 食堂のドアの隙間から細く光が漏れていることに気づいたエドガーは思わず足を止めた。時刻を考えると中にいる人間は自ずと限られる。少し躊躇ったが、折角来たのだからときっちり閉まっていないドアをそっと開く。
 キイ、と小さな音が響いて室内にいたセッツァーが振り向いた。──やはりそうか。エドガーは予想通りの顔を見て肩を竦めた。
 セッツァーは椅子の背凭れに腕をかけてだらりと背中を預け、右手には煙草、卓上には飲みかけのアルコールを用意している。灰皿の上の吸殻の数を見れば長いことここにいたのがよく分かった。
 セッツァーは吸いかけだった煙草を灰皿に潰し、不躾な視線でエドガーをじろじろと注視した。
「寝たんじゃねぇのか、王様」
「目が冴えてしまってね。君こそこんな時間までひとり酒かい」
 エドガーはセッツァーに答えながら食器棚からコップを取り出し、それを持って水道の前まで早足で歩く。寝衣にガウンという実にラフな服装であまり長く話したくないというのもあったし、この時間に起きて来たことを深く追求されるのが嫌だったせいもある。エドガーは水道の蛇口に手を伸ばした。
「マッシュはカイエンたちと野営か?」
 マッシュの名前が出た途端に蛇口を全開に回してしまい、激しい水圧でコップの底を直撃した水が跳ね返ってエドガーの手元をびしょびしょに濡らす。慌てて蛇口を閉めてそっと振り返ると、セッツァーが奇怪なものに遭遇したような目でエドガーを見ていた。
 エドガーは咳払いをひとつして、申し訳程度にコップに残った一口分の水を飲み込み、コップを置いて「では」とドアに向かおうとした。
「おい」
 声をかけられては素通りする訳にもいかない。あと一歩ドアに届かなかったエドガーは、心の中で溜息をついて仕方なしに振り返った。
「何かな」
「お前、袖ビッショビショだぞ」
「ああ、私としたことが。すぐ部屋で着替えなければ」
「なーんか変だな? らしくねえぞ、エドガー。眠れねえ理由があんのか」
 さも興味がないというような顔をしながら、ストレートに突っ込んでくるセッツァーに何と答えるべきかエドガーは迷う。はぐらかすべきだと頭では分かっているのだが、意外に面倒見の良いこの男の口が固いことをエドガーは知っていた。
 しかし今自分の頭を占めている問題を話してしまってよいものか──葛藤するまでもなく言えるはずがない、と結論を出したエドガーだったが、悩みに悩んでいることは事実なので──せめて糸口だけでもと辿々しく言葉を紡ぐ。
「……これは純粋な好奇心からで、そう、他意はないんだが。君は……その、女性経験が豊富そうに見えるが……」
 セッツァーが訝しげに眉を顰める。
「……男性経験はあるのか?」
 セッツァーの顔がふっと無になった。
 しまった、悪手だ──エドガーもまた自分を守るために思考停止からの無表情を纏い、すまない、忘れてくれとセッツァーに背を向ける。
「……そりゃ、ケツ使ってセックスしたことあんのかって聞いてんのか」
 背後から飛んできたとんでもない台詞に、ドアノブを握りかけていたエドガーの動きが止まった。
 セッツァーの言葉が頭の中で繰り返される。そこに含まれた重要なワードを反芻し、更に問い質すべきか否か迷った。しかしこんな話題にあまり妙に食いつくといらぬ詮索を受ける可能性もある。
 沈黙以上の肯定はない。エドガーがなんと返答すべきか答えを出せずにいると、セッツァーが再び尋ねてきた。
「それ聞いてどうすんだ? 何がきっかけでその純粋な好奇心ってやつが産まれたかは知らねえが」
 嫌な汗が背中を伝う。びしょ濡れの右袖が気持ち悪い。早くこの場を立ち去りたいエドガーに、セッツァーの鼻で笑った乾いた音が聞こえてきた。
「……背徳的だねェ」
 ──ああ、多分バレている。
 失礼、と短く答えたエドガーは逃げるように食堂を飛び出した。


 部屋で袖の濡れた服を着替え、乱暴にベッドの毛布をめくって中に飛び込んだ。
 ──マッシュの言ったことは嘘ではなかった。
 しばらく前からマッシュと淫行に耽ることはあったが、手や口を使っての慰め合いのみで、エドガーはそれで充分満足していた。しかしマッシュは足りないと言い出した。ここを使ってセックスしたいと、エドガーの尻の奥にある蕾に指を当ててきたのだ。
 無理やり指を埋め込まれて擦られて、何が何だか分からないうちにイカされてしまった。その時はそこでやめてくれたから良かったが、本当に指以上のものをいれられていたら……耐え切れたかどうか自信がない。
 実は、マッシュに謀られているのでは? という疑いの気持ちがあったのも事実だ。適当なことを言ってとんでもないことをさせようとしているのではと、本当に男性同士の場合はあの場所が常識なのだろうかと訝しんでいたが、セッツァーの発言で決して嘘ではないことが分かってしまった。
 ──兄貴、セックスしたことないだろ……
 哀れむようなマッシュの声が頭の中で再生されてぐっと唇を噛む。その通りだった、女性相手に場数を踏んでいるように見せかけて、その大体がハッタリと知ったかぶり。
 表面的には軟派に見せかけて、いつか現れる運命の相手のために誠実でいようとしていたら、まさか肉親で同性のマッシュとこんな関係になってしまうとは。
 マッシュのことは本当に愛しているし、初めて口付けを交わした日のことは忘れない。マッシュの方が手馴れていたのはなんだか癪だったが、抱き合うのも触れ合うのも気持ちが良かったから気にしなくなった。
 だからこの先一生セックスができなくてもいいかと思っていたのに、マッシュがあんなことを言いだすとは── 一体マッシュはどこで様々な知識を身につけたのかと、自分の知らない十年を想像してエドガーは身悶える。
 あの口振り、マッシュはすでにいろいろなことを経験済みなのだろうか。自分の知らない誰かに、触れたりキスしたり……それから。
「……」
 ──セックスできないと、飽きられてしまうだろうか。
 ごろりと寝返りを打ったエドガーが、毛布の端を丸めるように抱き込んだ。その頬は部屋に戻った時からもうずっと上気していて、眉間からは皺が消えることはなかった。
 正直あんなところを使うのは言い知れぬ恐怖を感じるのだけれど、マッシュがしたいと言うのなら努力すべきか──しかし指でさえあんなに辛かったのに質量のあるマッシュのものが入るだなんて、考えただけで身体が壊れてしまいそうだと思わず自分の肩を抱く。
 マッシュを受け入れられるだろうか? あの場所で? 指一本でも息が止まりそうだったあんなところで?
「っ……」
 唇をぎゅっと引き締めたエドガーは、ほんの少し頭を起こして廊下に繋がるドアを見る。物音ひとつ聴こえてこない。さっきだってセッツァー以外は寝静まっていた。
 こんな時間まで帰って来ないのだから、マッシュはカイエンたちと野営で夜を過ごすに違いない。明るくなってから飛空艇に戻ってくるはず──今はまだ日付が変わって数時間、夜明けまではまだ遠い。
 エドガーはごくりと喉を鳴らし、そろそろと下肢に手を伸ばした。下半身の衣類をゆっくりとずらし、前ではなく後ろ──毛布の中で双丘が露わになるまで服を下ろすと、少し躊躇いながら左手の人差し指を一番奥に当ててみた。
 しっとりと吸い付くそこは、指の腹を軽く押し込んだくらいでは入り口を開いてはくれなかった。エドガーは記憶を掘り返し、マッシュが直接口をつけたことを思い出して赤面しつつ、このままでは入らないことを理解して一度手を引く。そして今度は中指を選び、誰もいないと言うのに目線を彷徨わせ周りを確認してから、その指を口に含んで唾液を絡めた。
 指が乾く前にと恐々最奥の蕾に押し当て、先程よりも勢いをつけて中に押し入る。一瞬の肉の抵抗を突き抜ければ、思ったよりも呆気なく指先が中に沈んだ。同時にずくんと鈍い痛みが走る。
 眉を顰めながら少しずつ指を奥へと押し込むが、きつい。中の壁が吸い付いてきて指の侵入を妨げる。先に進めようと躍起になるほど無意識に締め付けてしまっているようで、指を差し込んだままエドガーは溜息をついた。
 マッシュはどうしていたっけ──また恥ずかしい記憶を揺り起こし、空いた右手で怖気付いて萎んでいる自分自身をおずおずと握ってみた。
 遠慮がちに扱いていく。緩やかに、ゆっくりと。亀頭に直接与える刺激は的確で、萎えていたものがじわじわ硬度を増していく。同時に後ろの口も緊張が取れ、力を込めっぱなしだった中指がググッと奥に潜り込んだ。内部に与えられた奇妙な感覚にエドガーが掠れた声を上げる。
 前を擦りながら後ろに指を挿し入れている、自分の痴態を想像して目眩がしそうなほどの羞恥を感じながらも、その異常性に少なからず興奮している現実を認めたくなくて、エドガーはきつく目を瞑る。手は止めず、後ろを自らこじ開けて、いつかはその場所にマッシュのものを咥えても壊れてしまわないよう──
 イキそう、と自身を扱く動きを速めた瞬間、耳が小さな甲高い音を拾った。思わず手を止めた時、確かにキイと控えめな音が──この部屋のドアが開く音がした。
 どくんと大きく心臓が音を立て、咄嗟にエドガーは前と後ろから手を離す。しかしできたのはそこまでだった。完全に開いたドアがぱたんと閉まり、そこから近づいてくる人影が足音を殺しながらエドガーが横たわるベッドのすぐ横に立ったため、エドガーはそれ以上動くことも、当然ずり下げた衣類を引き上げることもできなかった。
 毛布は肩まで掛けられており、その中の様子は外からではわからないはずだった。エドガーは目を閉じ眠っているフリをして、傍に立つ人影が毛布の中で涼やかにしている半裸の下肢に気づかないようひたすら祈る。人影は軽く体を屈めてフッと短い息を吐き、ごく小さな声で
「ただいま、兄貴」
 優しく囁いた。
 間違いなくマッシュの声を耳に、明日を待たずに帰って来てくれて嬉しい気持ちと、野営するのではなかったのかという戸惑いの気持ちが混じり合ってエドガーの中で喧嘩をする。
 とにかく寝たふりをしてやりすごそうと、エドガーは毛布の中の痴態がバレないよう呼吸を乱すまいと集中した。
 マッシュはまだ無言でエドガーを見下ろしている。帰艇したばかりなのだから早く着替えに行ってくれとエドガーは祈り続ける。
 先程までの自慰行為で随分身体に力が入っていたらしく、下半身が僅かに汗ばんでいる。動きを止めたことで毛布の中とはいえ汗が冷えて肌寒さを感じ始めた。マズイ、と思った瞬間、抑えきれずエドガーは小さなくしゃみをする。
 びくりとマッシュの影が揺れた。エドガーの顔から火が出るかと思うほどの熱が産まれたのと、
「兄貴……?」
 先程よりも大きめの声でマッシュが呼びかけたのは同時だった。
「起きてたのか……? ごめん、それとも起こしたか?」
 エドガーは寝たフリが失敗したことに唇を噛み、何とかごまかそうと答える。
「あ、ああ。今、起きた。」
 我ながら声が上ずっていると心の中で舌打ちをしつつ続けた。
「こ、今夜は……野営で過ごすのかと思っていたが……」
「ああ、野営の準備しかけてたんだけど、夜型のモンスターに囲まれてさ。結局こんな時間になっちまったけど倒しながら戻ってきたんだ。カイエンたちもヘトヘトで部屋ですぐ寝たんじゃないかな」
「そう、か。ではお前も早く着替えて休んだ方が」
「うん、その前に」
 マッシュが更に身を屈めてエドガーに顔を近づけた。その至近距離に不要な警戒をしてしまったエドガーは、思わず過剰な動きで毛布を首まで引き上げる。そして恐る恐るマッシュに視線を向けると、恐らくはおやすみのキスを贈ろうとしていたマッシュがぽかんと口を開けていた。
 暗がりで顔色など見えていないだろうに、つい鼻まで毛布に埋めて隠したエドガーを不審げに眺めたマッシュは、どうしたんだよ、と毛布を引っ張る。抵抗するように毛布の端を握り締めたエドガーの様子で何かを確信したのか、マッシュはやや強引に毛布をエドガーから引き剥がした。
 エドガーの体をひんやりした空気が刺す。肩から太腿まで、当然薄闇でも下半身を丸出しにしている様は充分見えているだろう。エドガーは泣き出しそうなほど顔を歪めて下肢の衣類を引き上げようと手を伸ばした、その腕をマッシュが掴んで静止する。
 離せ、と上げた抗議の声があまりに弱々しく、エドガーは掴まれた腕がぐいと頭に掲げられるのに抵抗し切れず、自分をじっと見下ろすマッシュの顔をそろそろと見る。マッシュの目はエドガーの下肢を凝視していた。
「……ずっと起きてたのか、兄貴」
 エドガーは答えられない。
「一人でするのにここまで下ろしてたのか……? ……ひょっとして、こっちも使ってた……?」
 マッシュのもう片方の手がエドガーの裸の尻を撫で、折り曲げていたエドガーの膝がびくっと跳ねる。フッとマッシュが笑った気配がした。
「ちゃんと勉強してたのか。可愛いな、兄貴」
 あやすような口調を受けてかあっと熱くなる頬を押さえることもできず、エドガーは涙目になって掴まれた手を振り解こうと暴れた。そんなエドガーを包み込むように上から抱き締めたマッシュは、エドガーの耳や頬やこめかみに小さなキスをたくさん降らせ、ベッドに膝を乗り上げる。
「この前の続き……しようか」
 耳元で低く囁かれてぞわりと背中が総毛立つ。そ、それは、と口籠っている間にマッシュの大きな手がエドガーの尻を撫で回し、今し方解していた蕾をちょんと指で突いた。ビクッとエドガーの体が揺れる。
 マッシュはそのまま指をめり込ませ、へえ、と少し驚いたように呟いた。
「柔らかくなってる……ホントにしてたんだ」
 何も言い返せないエドガーは、中途半端に煽っていた体に再び火をつけられるような感覚に恥じらい、せめて見られないようにと枕に顔を埋めて押し付けた。
「一人で寂しかった? それとも、……この前のがそんなに良かった?」
 マッシュが時折耳朶を食みながら囁き、中に押し込めた指先を円を描くように動かしていく。低くて艶のある声は耳から入ってエドガーの心を内から揺さぶる。先程達する寸前だった自身のものがまた硬く反ってきたことが分かり、触って欲しいという思いが恥ずかしさを若干上回って腰を僅かに捩らせた。
 マッシュはエドガーの髪を優しく撫で、一度指を引き抜いた。蕾は名残惜しそうにきゅっと口を閉じる。また少し笑ったマッシュは、横たわっていたエドガーの背中を抱えて四つん這いにさせた。マッシュに尻を突き出すような格好になり、エドガーが思わず不安げに後ろを振り返る。
「大丈夫。気持ち良くなろうな」
 そう言ったマッシュはエドガーの腹の下で重力に逆らっているものを握り、ゆるゆると扱き始めた。欲しかった場所に欲しかった刺激を与えられ、エドガーは声を抑え切れずに喘ぐ。
「あっ……あ、あ、」
「イクとこだったのか……タイミング悪かったのか、……良かったのか」
「う、んっ……マッシュ、もう、」
「いいよ、イッて。我慢しないで」
 先端をマッシュの手ですっぽり包まれ、先程果てる寸前で止められてしまった快楽の波がぞわぞわと下肢を迫り上がって来たのを感じ、エドガーはシーツに突っ伏してその瞬間を迎えるために足先を丸めて力を込めた。
 びくりと腰が揺れ、マッシュの手の中に濁った液体がびゅくびゅくと吐き出される。マッシュは根元から中身を絞り出すように丁寧に扱き、吐精されたものを指や手のひらに絡みつけてなるべく零さないように集め、その手をおもむろにエドガーの後孔に擦りつけた。
 生温かいものが尻に塗り込められるが、達したばかりで体に力の入らないエドガーは頭が回らずぼんやりとしている。しかしマッシュの無骨な指が精液と共に再びぐいぐい中に押し入ってくる感覚は、エドガーを覚醒させるに充分な刺激だった。
「あ、あっ……マッシュ、何を」
「うん、ちゃんと慣らすからな」
「あ、う……ううっ……」
 舐めて濡らした時とは比べようもない水音が後ろから響いて来て、エドガーは唇を噛んで堪える。マッシュの指が呆気なくつるりと滑り込んで行くのが感覚だけでもよく分かり、指が入り口を掠る度に顎が上がってしまって、またチロチロと体の中枢に火がつき始めていることをエドガーは認めなければならなかった。
 高く掲げた尻の中央をマッシュに遠慮なく弄られているという羞恥がまたエドガーを煽る。こんな恥ずかしい格好をして誰にも見せない場所をグズグズに解されて。せめて表情を見られていないのが救いだと枕に顔を擦り付けた時、少なくとも三本はエドガーの中に侵入していた指が全て引き抜かれた。
「あ……ん」
 つい名残惜しそうな声が漏れてまた恥ずかしさに襲われるが、マッシュの両手がエドガーの左右の尻臀を掴んでその奥を暴くように広げたため、ギョッとして首を後ろに向けようとした。
「力、抜いててくれよ……」
 エドガーが振り向くよりも早くマッシュが優しく囁いて、その場所に何か指よりも大きなものがぐっと押し当てられる。入り口を掻き回すように拡げ、ぐぐ、と潜り込んで来たその質量の大きさにエドガーは目を見開いた。
「あっ……、あ、あ、あ!」
「兄貴、力入ってる」
「あっ、あっ、無理、むりだ、ああ、」
 ぐいぐい中に押し入ろうとするモノの指とは比較にならない太さが、エドガーの後孔をギリギリまで拡げているのが刺激となって伝わってくる。感じたことのない圧迫感に脂汗が浮かび、それでもなお奥へ進もうとするモノが中を拡げようと動く度にガクガクと膝が震えた。
「力、抜いてくれ兄貴……これじゃもうイキそうだ」
「む、むり、あ、あ、」
「息吐いて、ゆっくり」
 言われるままに訳も分からず息を吐くと、その弾みで体が弛緩した隙にまたぐいっとマッシュのものが中に入り込む。体を串刺しにされている錯覚が過るほどに、内部を突き進むものが大きくて熱い。尻だけを突き出し完全に頭を枕に沈めたエドガーは、頭上でふーっとマッシュが深く息を吐く音を聞いた。
「入ったよ。兄貴」
 何が、と聞き返すまでもない。今自分の体を占領しているのは紛れもなくマッシュのもので、限界まで口を拡げた孔を溢れんばかりに満たし、中でどくどくと脈を打っている。
「凄い……兄貴の中、ぎゅうぎゅうだ」
「も、う、抜い……て、くれ」
「なるべく、無理させないから」
 そう告げると同時にマッシュが緩やかに腰を動かし始め、ぐちぐちと卑猥な音を立てて円を描きながら更にその場所を拡げようとする動きにエドガーが呻く。
 マッシュは前後左右に小さく動きながらエドガーの中での滑りを確認しているようで、うん、と頷いてから体を屈めてエドガーの耳に口を添え、
「力、抜いて、な」
 もう何度目か分からない念押しを囁いて、緩く腰を引いてから一気に奥を突き上げた。
「──っ!!!」
 声にならない悲鳴を上げたエドガーが枕に噛み付く。腰を伝わってびりびりと振動が頭まで揺さぶるようで、顔を地に沈めては貫かれる刺激で紐を引かれるように顎が上がり、ガチガチと歯が音を立てた。
 入り口をずぶずぶと通過する甘痒い感覚と、
弱い粘膜を突き上げられて体の奥をこじ開けられるような強烈な刺激に心身のバランスが取れなくなる。
 呼吸もままならず開きっぱなしになってしまった口から唾液が糸を引いて滴り落ち、最早羞恥など考えることもできなくなったエドガーは貫かれるままに喚き散らした。
「あ! あ! ひあ、ああ! だめ、もう、ダメ、あーっ!」
「兄貴、締めすぎっ……」
「あう、ううう! むり、ダメ、あう、あん、あっ……あ──!」
「くっ……」
 一際高く声を上げた瞬間ぐっとエドガーが腰を引き、その反動でぎゅうっと締め付けた孔に搾り取られるようにマッシュが精を吐出する。
 中に流れ込んできた熱いものに腹を満たされ、エドガーの下肢からがくりと力が抜けた。腕を支えに頭を垂らして覗き込んだ腹の下、自身の萎みかけたものの先端から、勢いなく精液がぽたぽたと涎を零している。
 一度果てているからか量は少ないものの、気づかないうちに再び達してしまっていた──そのまま腕もガクガクと震えて体はうつ伏せに崩れ、押し寄せるどろどろとした睡魔に諍う気力もなく瞼を下ろす。
 力のない背中を抱えられ、優しく抱き締められて耳元で愛を囁かれ、半分夢の中に入り込みながらもちゃんとできてたか、と尋ねた。
「うん。ちゃんとセックスできたよ、俺たち」
 マッシュの低い声が心地よく頭に響き、半開きの唇を柔らかい口付けで塞がれて、安堵したエドガーはようやく意識を手放した。



 ***



 翌朝エドガーの目はいつも通りの時刻に覚めたが、とても起きられる状態ではなかった。
 下肢の怠さとその奥の鈍痛、下腹部もどんより重く全身の疲労感があまりに大きくて、朝食も昼食もマッシュに部屋に運んで来てもらい、夕方近くにやっと体を起こせるようになってきた。
 仲間たちには体調が悪いと説明したから安心しろ、と告げたマッシュがずっとにやにやと締まりない顔をしていて少々腹が立ったが、エドガーが動けない間文句も言わず世話をしてくれたのだから何も言わないでおいた。
 兎にも角にもマッシュと体を繋げることはできたのだから、悩みは解消されたことになるのだろうか。しかしあんなことをしょっちゅうしていてはとても体がもたない、とマッシュに零すと、すぐ慣れると実ににこやかな笑顔で返されて、思わず拳を握り締める。簡単に言ってくれる──慣れるほどにあんなことをするというのも考えたくはなかった。
「次、あんなに締め付けないでくれよ。あっという間にイッちゃうからさ……」
 更に無理なことを言われ、ついにエドガーは握り締めた拳をマッシュの頭に繰り出した。したくて締めた訳ではない。体のコントロールが効かないようなことをしておいて、よくもぬけぬけと。
 しかしにこにこと邪気のないマッシュの顔を見ていると、毒気を抜かれたかのように怒る気力も吸い取られてしまう。新たな悩みの種を産みそうな気配にエドガーは眉を寄せた。
 陽が落ちてようやく着替えを済ませたエドガーがフラつきながらも部屋を出ると、その向かいの部屋の主であるセッツァーもまた中から出てきたところだった。
 エドガーと目が合ったセッツァーはすっと瞼を半分下ろして無表情に変わり、
「……お前、声デケェわ……」
 それだけ零してカツカツと靴音高らかに通り過ぎて行く。
 エドガーはドアに掴まりぶるぶると震え、首まで真っ赤に染めた熱が引くまでそこから動くことができなかった。

 エドガーの悩みは尽きそうにない。