診断メーカーより
『寒い季節に自分は薄着でも平気な顔してるのに
相手が薄着だとやたら心配して着膨れさせようとする』


 外に出る前にちゃんとコートを着込んでマフラーを巻いて、手袋も忘れずにとあれこれ準備し始めるマッシュを眺めながら、エドガーは何も言わず弟の好きにさせていた。
 ナルシェでは今日も雪が降り続き、最高気温すら氷点下である。頑丈に作られた家屋の中は暖炉の火が灯り汗ばむほどの温度だが、壁の外側は露出した肌を刺すような冷たい空気が広がっていることはエドガーも身に染みて実感していた。
 しかし生まれ育った砂漠では見られない雪というものの神聖さを気に入ってもいて、澄んだ空気と陽の光で雪原がキラキラと輝く様は息を呑むほど美しく、外に出るだけで一大イベントのように騒ぐマッシュの気持ちも分からないではない。
 マッシュはエドガーにコートを着せ、マフラーを巻き、帽子を被せて、手袋もはめて、モコモコ毛足の長いブーツを履かせ、すっかり着膨れた兄を満足げに眺める。
「兄貴、風邪引くなよ。外寒いからな。よし、じゃあ行くか!」
 そしてタンクトップ一枚でドアの外へ元気に飛び出したマッシュに何か言うべきか迷ったエドガーは、雪原で犬のように跳ね回る弟をどこか遠い目で見つめ続けた。

(2017.09.05)