おやすみ、と小さなキスを交わして潜り込んだベッドの中、触れ合っている肩がモゾモゾと動き、数分もしないうちに手が伸びて来て襟元から鎖骨に指が滑る。すぐにその意図に気づいたエドガーは腰をピクリと震わせたが、薄闇の中で困ったように眉を顰めてしまった。
「……マッシュ、すまん……、今日は疲れてる」
 嫌な訳では決して無い、という気持ちを強調するように実にすまなさそうな声で囁くと、慌てた素振りで指が引っ込む。
「ご、ごめん」
「いや、俺の方こそ」
「ううん、ごめんな、気が利かなくて……おやすみ」
 頬に軽い口付けが落とされ、今度こそ寝る体勢をとったマッシュから細く小さな溜息が聞こえて来た。分かりやすくがっかりしている様に胸が痛まない訳ではないのだが、ここのところ激務が続いていたため少しでも多く睡眠時間を確保したいのが本音だった。
 ああしかし、確かにご無沙汰である。時間に余裕がある時は週に五回は抱き合っていたのに、ここ一ヶ月ほど全くしていない──その事実に気づくと何だか身体がむずむずしてきた。
 いや駄目だ、眠らねば。明日も早い、寝不足では会議に支障が出る。エドガーはきつく瞼を閉じて数字を数え始めた。眠れない時のおまじないは効果覿面……のはずが、いくら数字を数えてもなかなか眠りにつけない。さっきまではあんなに眠くてたまらなかったのに。
 マッシュの指がほんの少し触れた部分にまだ熱が残っているように感じる。あそこで拒まなければ、あの手はどんな風にこの身体を撫でたのだろうか、そんなことまで考え始めてしまって、エドガーは思わず小さく身動ぎした。
 余計なことを妄想しないように、瞼はずっと閉じたままひたすら数字を数えているのだが、肩から二の腕にかけて隣のマッシュから伝わる熱が気になって仕方がない。
 マッシュはもう眠っただろうか? 動きがないのでもう寝てしまったかもしれない、そう結論づけて自分も無理矢理にでも寝なくてはと煩悩を振り払おうとした時、マッシュの身体が位置を整えるためか微かに揺れた。
 それは明らかにまだ眠りにつく前の動作で、マッシュもまた寝つけていないことを知ったエドガーは、とうとう身体をマッシュに向けてその肩に触れ頬を擦り寄せた。ビク、とマッシュの身体が不自然に大きく跳ねる。
「あ、兄貴……?」
 小声で呼ぶマッシュの肩に本格的に頭を乗せ、額を首筋に擦り付ける。そのまま顎を上げたエドガーは、耳朶に唇が触れる距離で我慢できずに囁いた。
「眠れなくなった……」
「え、えっと」
「やっぱり、お前に疲れさせてもらわないと……眠れない」
 吐息混じりの声が途切れるや否や、太い腕がやや強引に背中を抱き寄せて厚い胸に身体を閉じ込められる。そのままシーツに沈められて濃厚な口付けを受ければ息はすぐに上がり、エドガーは必死でマッシュの頭を掻き抱いた。


 翌朝の目覚めはやけにスッキリとしていて、下肢の重だるさは残るものの頭は妙に冴えていた。
 我慢はよくないのだな、と納得したエドガーは、胸に散らばる斑点を指でなぞりながら思い出し笑いをして頬を染めた。

(2018.02.03)