もぞもぞと落ち着かない隣の塊の動きに気づいて目が覚めたのはまだ真夜中。 闇に慣れない目が少しずつ空間の輪郭を捉えられるようになるまで瞬きをし、エドガーは同じベッドで眠っているはずのマッシュが少し前から奇妙に動いていることを察して、隣へ首を回してこちらに丸めた背中を向けているマッシュの後ろ姿に声をかけた。 「……マッシュ」 びく、とマッシュの肩が揺れる。 「……おしっこか?」 尋ねると、恥ずかしそうにエドガーを振り返ったマッシュが小さく首を縦に振った。 「トイレ、いってこいよ」 「……でも、こわい……」 「もう、しかたないな……」 エドガーはよいしょと身を起こして、縮こまっている弟の肩に優しく手をかけた。 「ついてってやるよ。おもらししたらばあやにおこられるぞ」 「ほんと……?」 差し出した手を取ったマッシュもまた起き上がり、手を繋いだ二人は裸足のまま冷たい床をひたひた歩いて便所を目指す。 真夜中の城内はひっそりと静まり返り不気味な気配に身が竦むが、二人で行けば大丈夫──無事に用を足したマッシュは安堵の息をつき、エドガーも眠い目を擦りながら自分が兄らしい行動を取ったことに誇りを感じていた。 あれから二十数年。 夜明けを迎えた寝室の窓からは明るい光が射し込んで、実に爽やかな空気に満ち溢れているというのに、部屋の主は長い金髪を乱したままベッドに寝転がって起き上がろうとはしない。 朝食をトレイに乗せて部屋に現れたマッシュは、未だ身体を起こさないエドガーに微笑みかけた。 「おはよう、兄貴。朝食持って来たよ」 「……マッシュ」 トレイをテーブルに置きつつ、不機嫌な声で自分の名を呼ぶ兄に首を傾げて傍へ近づく。 「兄貴、どうした?」 「……手洗いに行きたい」 むすっと仏頂面を見せてぽつりと呟いたエドガーの頬が薄っすら朱に染まっている。マッシュはエドガーの言葉を頭の中で噛み砕き、ああ、と理由を理解して苦笑した。 「起き上がれないのか」 「……誰のせいだ」 「ごめん、夕べはちょっと無茶し過ぎたか……」 申し訳なさそうに笑うマッシュを睨みつけて早くしろと催促するエドガーに腕を伸ばし、その裸同然の身体を毛布で包んだマッシュは軽々と兄を抱き上げた。 「漏らしたらばあやに叱られるな」 「マッシュ、調子に乗り過ぎだ」 「はいはい」 目尻を下げて含み笑いをするマッシュの首に爪を立てたエドガーは、唇を尖らせて太い二の腕に額を擦りつけた。 |