えっちなお話の練習用に書いたもの
タイトルそのままで裏要素強めですご注意を


 しつこいくらいに重ねられていた唇が徐々に首から鎖骨へと降りていき、それと同時に服のボタンが上から外されていることに気付いたエドガーは、抵抗をしないことで誘いに応えるというやや後手の立場でマッシュに身を任せることを決めた。
 相手が求めるから与えるという前提で精神的に優位に立とうとする、それが自分の悪い癖だというのはよく分かっていた。
 しかし最近とみにマッシュによって自分のペースが崩されつつある自覚はあったので、せめて兄としてのなけなしのプライドを保つためのささやかな抵抗のようなものだった。
 夢中になっているのを好きにさせるだなんて器が大きいからこそだろう──胸の辺りに子供のように吸い付いてくる弟の髪を余裕ありげに撫でながら、この後訪れる快楽の時間に密かな期待を寄せていた時だった。
 左胸の乳首に唇を寄せていたマッシュが、ふと指先で尖りつつあった先端をちょんちょんと突く。それから輪郭に沿って指先でぐるりとなぞり、何かを確かめるように執拗にその場所だけを弄り始めたので、エドガーも不審に思って金色の頭頂部を見下ろした。
「……なに、してる……? さっきから、そこばっかり……」
 触れられていることで上がってしまう息を抑えながら、思わず尋ねたエドガーに対してほんの少し顔を上げたマッシュは、再び薄紅の輪郭を指で辿りながらぽつりと呟いた。
「ここ……、デカくなってねえ? 前より」
 マッシュの言葉に眉を寄せ、エドガーは自分の胸の先端をまじまじと見る。マッシュが弄くっている左側と晒されたままの右側。この部分に着目したことがなかったため断定はできないが、言われてみれば以前より面積が大きくなっているような気がしないでもない。エドガーの顔がさっと朱に染まった。
「コレも、ちょっと伸びたよな。前は引っ込み気味だったのに」
「んっ」
 そう言いながら突起を爪で弾かれて、うっかり声が漏れた口を手で押さえる。上目遣いのマッシュの瞳が微かに意地悪く揺れたのをエドガーは見逃さなかった。
「お、お前が弄るからだろう」
 声の上擦りを悟られないように言い返すと、マッシュが小さく笑った吐息が乳首に触れてエドガーは肩を竦めた。
「だって、兄貴最初は擽ったがってるだけだったのに……、触るたびに気持ち良さそうになってるから」
 喋りながら輪郭まで飲み込むように口に含まれて、エドガーは咄嗟にマッシュの頭髪を掴む。
 舌で念入りに突起を転がされると腰から力が抜けてしまいそうになる。奥歯を噛み締めて下肢に力を込め、まだむず痒さの勝る快楽の火種を大きくさせまいとエドガーは堪えた。
「すげえ感じるようになったよな……? ひょっとして、下触られるより気持ちイイ?」
「ばか言っ、あっ」
 空いていた右の乳首を指先で捻るように摘まれて顎が自然と持ち上がった。強めに擦られると身体の中枢に熱が集まっていくのがよく分かる。
 マッシュの言う通り、以前は気持ち良さなど感じなかったただの胸の飾りが、近頃は情事の度に触れてもらうことを望む箇所になっていた。前戯の一部として通過点のように考えていた行為だったはずが、これまでより期待の比重が大きくなっている場所であることは事実だ。
 しかしそれは弱点が増えたと言うことでもある。ここが弱いと相手に知られてしまえば後は攻められるだけではないか、とエドガーはマッシュの手を止めようとした。
「も、そこは、いい」
 不自然な呼吸を押し殺しての言葉はどうしても辿々しくなる。自分の声に羞恥で頬を赤らめたエドガーをちらりと見上げたマッシュは、制止を無視して口と指を動かし続けた。
「……マッシュ!」
「なんで。好きだろ、弄られるの」
 すっかり硬くなった突起に軽く歯を立てられた瞬間、びくりと大きく跳ねた身体の反応をエドガーは誤魔化せなかった。ちゅうっと吸い上げられると先端に電気を流されたような熱が産まれて更なる刺激が欲しくなる。
「好き、じゃないっ……」
「うそつき」
 しつこいくらいに捏ねくり回されて、痛みだけではない蕩けそうな心地良さがじりじり理性を追い詰めていく感覚に身を捩らせ、エドガーは髪を毟らん勢いでマッシュの頭を押さえつけた。
「だめ、マッシュ、も、やめ、」
 腰がもじもじと揺れ始める。下腹部に連動した欲の解放を求め、思わず下肢に伸ばした手首をマッシュに捉えられて、エドガーは表情を取り繕えなくなって泣き出しそうに眉を下げた。
「下、触らせ、あっ、」
「ダメ」
「マッシュ、頼む、アッ……、もう、あ、ああ」
 一際強く吸い上げられた瞬間、大きく膨らんで弾けそうだった風船に針を刺されたかのように、堪えていたものが抵抗を押し退けて溢れ出た。
 胸から下肢へと一直線に貫いていった刺激が全身を硬直させ、触れてもいないのに勃起していた腹の下のものが服の中で一度、二度と欲望を吐き出していく。
 はあはあと大きく胸を上下させてだらりと四肢を垂らしたエドガーからようやく身体を剥がしたマッシュは、放心して開きっ放しの口から舌を覗かせてぼんやりと横たわる兄を見下ろして驚き混じりに苦笑した。
「すげぇな……、ホントにイッちまった」
 感心したような呟きをかろうじて耳に捉えたエドガーは、握り締めた拳を震わせながら身を起こして力一杯マッシュの頭に繰り出した。
「いでっ」
「……馬鹿ッ!」
 真っ赤に染めた顔でマッシュを睨みつけたエドガーは、まだ震えの残る指先で急いで服のボタンを留め始める。それを見たマッシュが慌ててエドガーの肩を抱いた。
「あ、兄貴、俺まだ、」
「もう知らん」
「ごめん、ごめんって……! もう無理にしないから、」
「知らん」
 頭を擦り寄せてくるマッシュの顔面を遠慮なく押し退けたエドガーに、平謝りでマッシュが縋り付く。
 それでも頑なに今日はこれ以上は許さないと心に決めながら、開けてしまった扉の罪深さを噛み締めて、エドガーは主導権を完全にマッシュに明け渡す日が近づいていることを覚悟し始めていた。

(2018.03.02)