診断メーカーより
「ワンセットのピアスを1つずつつけているマエド」


 気付いた時には手遅れだった。
 何だか重量が足りないと感じた右の耳、指に触れるはずの石や金属は何もなく、つけていたピアスの存在が消えた耳朶の感触にエドガーは肩を落とす。
 念のため辺りを見渡すが草が蔓延る大地に光るものはなく、今日一日それなりの距離を歩いて来たことを思うと来た道を辿るわけにもいかなかった。
 よりによってあのピアスか──エドガーははっきり溜息をつき、それを後方で聞き咎めたマッシュが心配そうに兄の肩に手を置いた。
「兄貴、どうかしたのか? さっきからきょろきょろして……」
「……マッシュ。すまん」
「ん?」
 開口一番謝罪を口にしたエドガーにマッシュは首を傾げる。エドガーはバツの悪そうな顔で、マッシュから少し視線を逸らしてぼそりと呟いた。
「この前お前と揃いで買ったピアス……、片方、落としたらしい」
「え」
「……すまんな」
 俯きがちに零したエドガーの左耳で、片方だけのピアスが淋しげに揺れていた。
 数日前に立ち寄った街で見つけた青い石のピアス。光の加減で色が僅かに変わるのが珍しく、対となる二種類のデザインに惹かれて二人で分け合った。
 今マッシュが耳につけているピアスがまさにその片割れで、朝はその姿を見て心が躍ったと言うのに。
 マッシュは軽く頭を掻き、それから何か思いついたように上目遣いに微笑んで、おもむろに自分の右耳のピアスを外し始めた。そして瞬きをして目を瞠るエドガーの右耳に手を伸ばし、驚きながらも抵抗しないエドガーのその耳朶に、外したピアスを取り付ける。
「……これでもお揃いだよ」
 自分の左耳を指差してにっこり笑うマッシュを前に、エドガーも軽く眉を下げて笑い返した。
 エドガーは左耳に残っていた独りぼっちのピアスを外し、マッシュと同じピアスを揺らして気恥ずかしそうに頷いた。

(2018.03.07)