ほぼ熱は下がったが、今日一日は安静にしろと言われて大人しくベッドで寝返りを打っていた昼下がり。
 槍術の稽古が終わってすぐにマッシュの部屋を訪れた兄のエドガーは、汗に濡れた白いシャツを脱ぎ捨ててマッシュが横たわるベッドの上に放り投げ、勝手に弟の着替えを引っ張り出している。
「兄貴には小さくない?」
「首回りがちょっとキツイくらいだ。ボタンを留めなきゃ大丈夫さ」
 マッシュがよく寝込む体質のせいか、双子であるのに齢が十を越えた頃から兄弟の体格差は広がる一方だった。兄のエドガーは最近は喉仏が目立ち始め、一回り近く身体の小さいマッシュよりも声が低くなりかけていた。
 しかし幼少時から常に一緒に過ごしていた双子の兄弟の仲は良く、マッシュが病に伏せばこうしてエドガーが度々顔を出して話しに来た。その日に城であったことを細やかに伝えてくれる話し上手の兄を、マッシュはいつも夢見るような羨望の眼差しで眺めていた。
「……な、驚くだろ。誰にも言うなよ、俺たちだけの秘密だからな」
「うん、分かった」
 いつもの内緒話を二人で共有し、楽しい時間はすぐに過ぎる。
 ずっとこうして、何も隠し事なく二人一緒に大きくなれるのだと信じていた。


 次のスケジュールに合わせて慌ただしくエドガーが部屋を去ってからしばらく後、女官が一人訪ねて来た。エドガーが脱いだシャツを取りに来たと告げた彼女に、マッシュはベッドの周りを眺めて何処にも見当たらないと答える。
 首を傾げながら女官が部屋を出て行って、ドアの外から人の気配がなくなったのを慎重に確認したマッシュは、毛布の中に押し込んだせいで皺だらけになった白いシャツをそろそろと引っ張り出す。
 首と脇に汗染みがついたエドガーのシャツを握り締め、誰もいない部屋だというのに辺りを伺いながら、マッシュはそうっとそのシャツに顔を寄せた。鼻に押し当てて息を吸うと、甘酸っぱい匂いが鼻腔を支配する。
 とろんと目尻を下げたマッシュは、左手に握ったシャツはそのまま、右手をゆっくり下半身へと伸ばし、下着の中に差し入れた。
 膨らみかかった腹の下のものをやんわり掴んで擦り出す。最初は静かに、徐々に速く。エドガーの匂いに満たされ、目を閉じれば妄想の中で兄が妖しく微笑んだ。
 眉根を寄せて歯を食い縛り、乱雑な扱きで一気に昇りつめたマッシュは、果てた後もしばらく肩で息をしながら陶酔の表情のまま天井を仰ぎ、エドガーのシャツに顔を埋めていた。


 先に秘密を作ったのは自分。
 このまま一緒にいることができなくなる日がいつかは来るのだろうと、背徳感に苛まれながらもマッシュはエドガーの夢を見続ける。

(2018.04.07)