見知らぬ世界で出逢った新たな仲間たちは個性的で、それぞれの「元の世界」の情報を得るのは実に興味深い時間であったし、何より女性たちが皆聡明で美しい。 未だ解明されぬ謎も多く手探りの旅ではあるけれど、好奇心を擽られる日々はエドガーにとって充実していて楽しいものだった。 しかし残念なことにエドガーが誰を口説こうとも女性陣は靡く素振りすら見せてはもらえなかった。それどころか、逆にエドガーが妙な声をかけられることが多くなった。 エドガー、貴方昔はかなりの悪戯っ子だったんですってね。お前、クールなフリして案外熱い男だったんだな。 見目麗しいだけでなく勇ましい女性たちが、日替わりで自分の情報を持ち寄ってくることに眉を顰めたエドガーは、その根源を問い詰めることにした。探すまでもない、マッシュに決まっている。 「お前、レディたちに何を吹き込んでいる」 単刀直入に尋ねたエドガーに対し、マッシュは悪びれずに笑った。 「何って、自慢の兄貴の武勇伝だよ」 茶化している訳ではなく、本気でそんなことを言っているのがきらきらとした瞳でよく分かるので、エドガーの方が恥ずかしくなってしまう。 「折角異世界の人間同士が顔を合わせているんだ、もっと有意義な話題はないのか」 「だって、俺が話せるのはフィガロのことくらいだし。国を治める王様は兄貴で、いろんな機械を作り出してるのも兄貴だ。どうしても兄貴の話になっちまうんだよ」 当然とばかりに告げるマッシュの顔は真剣である。やれやれとエドガーは溜息をついた。この素直で純粋な心の持ち主は、下心も野心も持ち合わせていない。 集った仲間は全て、各々の世界でも戦いを経験している戦士である。守られる存在ではない女性たちの芯は強く、レディと呼ばれて喜ぶどころか口の滑らかなエドガーを警戒するような空気すら感じると言うのに、双子の弟であるマッシュは変わらずの人誑しですんなり彼女らの懐に入ってしまうのだろう。 腹に一物あるようなエドガーと違ってマッシュは誰からも受け入れられやすい。そんなマッシュが口にするエドガーの幼い頃から今に至るまでの多種多様なエピソードは、親しみを、というより若干の揶揄いを持って仲間内に吹聴されつつあった。 「あまりあれこれと話すな。仲間とはいえ、まだ会ってそれ程時間も経っていない相手に子供の頃のことまで知られているのは調子が狂う」 「あっ、でも結婚の約束したこととかは話してないよ」 「……マッシュ」 「エッチしてることも」 エドガーはこめかみを押さえて俯きがちに目を伏せた。若干の頭痛に眉を寄せた後、気を取り直すように短く息を吐いて顔を上げる。対面ではマッシュがにこにこと首を傾げていた。 「……それは絶対に言ってはいけないぞ」 「おう」 本当に分かっているのか、と不安げにマッシュを睨むエドガーの気苦労を知る由もなく、マッシュは微かに頬を紅潮させて嬉しそうな表情を浮かべる。 「みんな、兄貴の話すると兄貴のこと褒めてくれて、どれだけ兄貴が凄いかって分かってくれる。俺はそれが嬉しいんだ」 面白いやつもたくさんいるしな、と大きな口を開けて笑う無邪気な様子は正直可愛いと思ってしまう──気恥ずかしさを隠してエドガーは肩を竦め、程々にしろよと残してこの話題を終わらせようとした時。 ふと笑顔だったマッシュがほんの少し困った目になった。 「でも、早く元の世界に戻りたいよ」 意外な言葉にエドガーが眉を持ち上げる。 「そうなのか? てっきりこの世界を楽しんでいるものかと」 「楽しいは楽しいんだけどさ、こんだけ大人数でゾロゾロ動いてるだろ、なかなか……二人っきりになれねえし……夜も……」 上背があるはずなのに上目遣いでエドガーを見るマッシュの朱色の頬がいじらしく、エドガーも思わず頬を染めて目を泳がせた。 「そ、そうだな……、……今夜は、皆から少し離れたところにテントを張るか……?」 「……うん……」 照れ臭そうに見つめ合う双子を遠巻きに眺めていたセッツァーは、二人のテントから誰より遠い場所に寝床を作ろうと心に決めた。 |