日差しが強く気温も高い道中にて見つけた湖のほとりを休憩ポイントとして、子供達は水辺で大はしゃぎ、大人だってあまりの暑さに裸足になって、足を水に浸して涼んだ。
 重い装備を岩の上へ置きエドガーとカイエンが裾を捲って膝を出す横で、マッシュとロックなどさっさと上半身の衣類を脱ぎ捨てて、下も下着だけになって頭から水に飛び込んでいた。
「どうするんだ、そんなにずぶ濡れになって」
 呆れて声をかけるエドガーに水飛沫をかけながら、「この暑さなら歩いてりゃ乾くさ」とロックが軽口を叩く。
 顰めっ面で顔にかかった水滴を手の甲で拭うエドガーの元へ、ぬるりと魚のように泳いできたマッシュが快活な笑顔を見せた。
「兄貴ももっと深いとこ行こうぜ。ロックの言う通りすぐ乾くよ」
 子供のように目を輝かせて誘ってくる弟に渋い顔を苦笑に変えたエドガーは、それでもいやいやと首を横に振る。
「フィガロの国王が、そんな子供みたいな真似、うおっ!?」
 エドガーが言い終わらないうちに、ざばっと水から飛び上がったマッシュはエドガーの腰にしがみ付いて水中に引き込んだ。予測していなかった動きにエドガーは完全に不意を突かれ、足を滑らせて派手な水飛沫を上げながらひっくり返る。
 慌てて水面に顔を上げて身を起こしたエドガーは頭からずぶ濡れで、呆然と水を滴らせる色男を仲間たちの笑い声が取り囲んだ。
「な、そんだけ濡れりゃもういいだろ! あっちまで競争しようぜ!」
 エドガーの腕を軽く引っ張ってから、念押しに振り返ったマッシュは沖に向かって泳ぎだした。追いかけてくるかどうかは五分と予想していたマッシュだったが、息継ぎの合間にもう一度後方をチラと確認するとこちらに向かってくる金色の頭が見えた。
 マッシュは北叟笑み、大きく息を吸って潜水する。泳ぎには自信があるが、それは兄も同じこと。マッシュより着衣が多い分エドガーが不利とは思うが、後ろから脚を引っ張られてはたまらない。
 頭の先まですっかり水中に身を潜らせて、エドガーが来るのを正面から迎えるべくくるりと回る。水は澄んでいて、目を開けるとぼんやり揺らめく水面の陽の光と、藻や小さな魚がマッシュの周りをふわふわと通り過ぎて行くのが見えた。
 この透明度ならエドガーが来ればすぐに分かるはず。後少し呼吸は持つはずだと前方に目を凝らしていたマッシュの側面で、水中を漂う美しい水草のような金の房がゆらりと視界の端を掠めた。
 あっと思った時はすでに背後から腕を掴まれ、マッシュは強引に身体ごと振り向かされていた。その対面に現れた揺らめく金の髪の真ん中で、蒼玉のような青い光がふたつ煌めいているのを見た瞬間、止めていた息を驚きでゴボッと吐き出したマッシュの唇を噛み付くように塞いだものが、ふーっと生暖かい呼吸を吹き込んできた。
 重なっていたのはほんの二、三秒。水面からほぼ同時にざばっと顔を出したマッシュとエドガーは、しばらくは荒い息を整えるために無言だったが、やがてどちらともなく視線を合わせてニヤリと口元を綻ばせる。
「……やったな。ここじゃ続きもできねえってのに……」
「兄を揶揄った罰だ」
 濡れて顔に貼りついた髪を後ろに流して撫で付けながら、エドガーが不敵に眉を持ち上げる。マッシュは挑戦的に目を細め、ニッと口角を上げてエドガーを見据えた。
「夜、覚悟しとけよ」
「望むところだ」
 マッシュの挑発に吐息混じりの声で答えたエドガーは、小さなウィンクを見せてからマッシュの不意を突いて岸に向かって泳ぎ出す。遅れをとったマッシュもその背を慌てて追いかけた。
 浜で彼らを迎えた仲間たちのあずかり知らぬところで、二人の胸には火がついていた。内なる炎も手伝ったのか、目的の街に着く頃にはずぶ濡れの服はほぼ乾いていた。

(2018.05.14)