エドガーが手と首を同時に横に振りながら、申し訳なさそうな笑顔を浮かべて異世界の仲間たちに何かを断るような仕草を見せているのを、やや離れた岩の上に腰を下ろしたマッシュはぼんやりと眺めていた。 そのまま品の良い会釈をしてから彼らに背を向け、エドガーはマッシュの元へ歩いてくる。エドガーが傍まで来た時、マッシュが首を傾げながら尋ねた。 「何話してたんだ?」 「ん? ああ、昼食を一緒にどうかと誘われてね。お互いの世界の話でも語り合わないかと」 マッシュの隣に腰掛けながら穏やかな笑顔を乱さずに告げるエドガーに対し、マッシュは驚いて瞬きをする。 「行けば良かったじゃん。何で断ったんだ?」 その言葉に今度はエドガーが驚いたように瞬きをし返した。 「だが今日の昼はお前と食べると約束していたろう」 「俺とはいつも食べてるだろ? せっかく誘ってくれたんだ、俺に遠慮しないで行って来ていいよ」 マッシュがサラリと答えた内容を少し考えるような顔で聞いていたエドガーは、青い目を横に流して含みのある表情を見せた。 「……なら、お前も一緒に」 「俺はいいよ、難しい話になりそうな面子だもんな。あっちでティナたちと飯食ってくるよ」 「……いいのか?」 「勿論。兄貴は一国の王だからな、みんな兄貴の話が聞きたいんだよ。俺に構わないで、こっちにいる間は他の仲間を優先してくれ」 朗らかな笑顔でそう口にしたマッシュを数秒じいっと見つめたエドガーは、口角だけをにんまりと上げて二度ほど軽く頷いてみせた。 「そうか、それならお言葉に甘えて新たな仲間を優先するとしよう」 「おう、たくさん話して来いよ」 何の他意もなく仲間たちから慕われる自慢の兄を送り出したマッシュだったのだが。 「機械城のシステムについて話を聞きたいと言われてるんだ。行ってもいいか?」 「ああ勿論、行って来いよ」 「飛空艇のエンジンを見せてくれるそうだ。すまんがしばらく行ってくる」 「へえ、勿論いいよ」 「今後の旅について作戦会議が」 「勿論」 「レディたちとの語らいへ」 「……勿論……」 「子供達の遊び相手を」 「……、もち、ろん……」 一度飛び出した兄がさっぱり自分の元に戻って来なくなってしまった──気付けばかなりの大人数となった仲間たちのあらゆるグループに顔を出し始めたエドガーは、声をかけられた時だけでなく呼ばれてなくとも自分から日頃接点のない者に話しかけに行っているようだった。 初めこそにこやかにエドガーを見送っていたマッシュだったが、こうも傍からいなくなるとほんのり寂しさを感じ始めた。同じ集団にいながらエドガーの隣にいるのは自分以外の誰かであることが続き、夜にようやく隣のベッドにやってきたエドガーは疲れたとすぐに眠ってしまう。 他の仲間はあんなにエドガーと話をしているのに、いつの間にか自分は全然まともな会話をしていない──肩を落としたマッシュが腰掛けるベッドの上、寝支度を終えて隣に座ったエドガーが、ふと思い出したように口を開いた。 「そうだ、ビビに砂漠の昔物語を聞きたいとせがまれていてな。明日はビビと眠ろうかと」 柔らかく微笑みながら決定事項のように伝えるエドガーにやや引きつった笑顔で勿論と答えかけたマッシュは、思わず言葉を詰まらせる。 ん? と念押しするように上目遣いに覗き込んでくるエドガーを見つめ、自然に笑おうと努めたマッシュの表情は思惑に反して強張っていった。 「もち、ろん……」 無理やりいつもの言葉を搾り出そうとしたマッシュは、完全に笑顔を崩してエドガーの背に手を伸ばし、肩を強く抱き寄せた。 「……ダメに決まってる」 フッとエドガーが吹き出すように息をついた。 「そうか、ダメか?」 「……夜くらい、一緒にいたい……」 「夜だけでいいのか?」 「……昼間も、もうちょっと一緒がいいな……」 「……分かった、そうしよう」 満足げに答えたエドガーは、自らも頭をマッシュの肩に擦り寄せてそのまま体重を預けてきた。 ハメられたことを理解したマッシュだったが、チラリと上から見下ろしたエドガーの頬が嬉しそうに緩んでいるのに気づいてしまうとそれ以上何も言えず、代わりに腕の力を強めて優先権を主張するのだった。 |