エンジン不調のファルコン号の部品をいくつか交換するため、必要なもののリストを渡され使いに出されたフィガロの王と、荷物持ちなら任せろと同行を買って出たその弟。
 ギャンブラーの指示でお使いだなどと国の大臣が聞いたら卒倒するなと、エドガーとマッシュが笑いながら連れ立って歩く静かな街並み。
 長い髪を纏めて袖を捲るらしくない格好で、エンジン室にて孤軍奮闘しているセッツァーが痺れを切らさない程度に、のんびりデート気分でどうせなら茶でも飲んで行くかと呑気なことを話していた往路だったのだが。
 渡されたリストと全く同じ品を探すのは至難の技だった。そもそもありふれた街の道具屋に飛空艇に使える部品が勢揃いしているはずもなく、依頼主だってそれくらい分かりきっているだろう。
 それで二人は何故セッツァーがエドガーにリストを渡したのかを理解した。同じものがなければ代わりのものが必要で、何が代わりになるのか判断できるのは仲間の中ではエドガーしかいない。
 これは面倒なことになったと、店先であれこれ考えて唸り、主人に品物を並べてもらって首を捻って考えるエドガーを、ただ応援するしかできないマッシュは心配そうに側で見守っていた。
 ようやく納得できる商品を買い揃えてリストのチェックを終えたエドガーは、店の壁に掛かっている時計を見上げて肩を竦める。
 二人だけの時間を持つには遅過ぎる。諦めてこのまま帰ろうかと見上げた隣のマッシュの顔も、残念そうな苦笑いが浮かんでいた。
 来る時は弾んでいたのに、帰りは足取り重く歩幅も狭い。飛空艇で旅する生活は気の置けない仲間に囲まれ楽しく充実しているのだけれど、二人きりになる時間は稀だ。狭い個室の壁は薄く、不埒なことをしでかそうものなら隣室で眠るオーナーから苦情が来る。
 ならばせめてこのひとときを、できる限り引き延ばそうか。声に出して示し合わせた訳でもなく、どちらともなくゆっくりと歩く。重苦しいかと思われた歩調は、いつしかその鈍さが心地良いものとなっていた。
 穏やかに会話しながら二人で歩く帰り道。大っぴらに手を繋ぐことは憚られたので、密やかに手の甲を触れ合わせて。時折目線を合わせて微笑み、悪くない時間だと二人の口元が緩む。
 他愛のない話が途切れたら、互いの名前をおもむろに呼んで返事を聞くだけのやり取りなどを楽しんだ。ここまで歩けば周りに人もいないのだから、小指くらいは絡めてしまおう。横目で相手をチラリと見やり、悪戯っぽく口角を上げて。
 この道がいつまでも続けばいい──浅はかな願いも虚しく前方に見えた飛空艇を前に、エドガーもマッシュも眉を下げて笑った。二人きりの時間はお終いだけれど、短くも満たされる時間だったことに顔を合わせて満足げに目を細めた。

 飛空艇では、遅い帰艇に青筋を立てたギャンブラーがにこやかな二人とは真逆の表情で出迎えてくれた。

(2018.05.28)