ずっと胸の音が鳴り止まない。速くなったまま速度が戻らない。 腕の中には愛する人。子供の頃から憧れて、想うことを許されない人だったのに、諦めきれずに大人になった。 その人が素肌で腕の中にいる。早鐘を打ち続ける胸に頭を乗せて肌を重ねた余韻に浸っている。震え上がるほど綺麗で、艶めかしくもいじらしい挙動の全てを思い起こし、また身体が昂ぶってしまいそうになるのを必死で抑える。 時折胸にかかる暖かな息が愛おしくて、抱き寄せる腕に力がこもる。ほんの少し笑ったような息遣いにまたどきりと心臓が跳ねた時、「眠らないのか」と優しい声が尋ねてきた。 「……眠るのが怖い。この幸せが全部夢だったらって思うと……眠りたくない」 素直な気持ちを伝えると、愛しい人はまた笑って、もぞもぞと胸を登りひょっこり目の前に顔を出した。 垂れ下がる金の髪の美しさと、細められた目を縁取る長い睫毛が揺れるのに見惚れて声を失う。 「俺もだ」 愛しい人はそう告げて、だから眠るのはやめよう、と唇に噛み付いてきた。 |