急ぎの買い物で店内を物色している間に、店の中にいても分かるほどに空が暗転して遠雷が響き始め、とうとう土砂降りの雨になった。 会計を終えたエドガーとマッシュへ、恰幅の良いおかみが古びた黒い傘を一本差し出す。 「いい男にはサービスだよ。って言っても一本しかないボロ傘で悪いけどさ、ないよりはマシだろう」 有難く受け取りはしたものの、さてこの豪雨。 開いてみると成程傘は大きめではあるが、体格の良い男二人がすっぽり収まるほどではない。 顔を見合わせた双子の兄弟は、仕方がないなと苦笑を浮かべて雨の中へ繰り出した。エドガーは右手で品物が入った袋を、マッシュも同じく左手に袋を抱えて右手は傘を持って。 傘を真ん中に肩を並べて歩いてはみたが、やはり外側の肩がびしょ濡れになる。通り雨だろうからと我慢を選んだエドガーに対し、マッシュは何か思いついたように傘の柄をエドガーに預けた。空いた右手でエドガーの右肩を抱き寄せ、身体を密着させる。 「おい」 少し照れたようにエドガーが抗議するが、マッシュは悪戯っぽく歯を見せて笑い返す。 「この雨だ、誰も見ちゃいないさ。傘も隠してくれるしな」 それもそうかと上目遣いに傘の内側を睨んだエドガーは、肩を抱くマッシュの手の甲に水滴が当たるのを気にして自らも身体を寄せた。 少々歩きにくくはあるが、湿気と蒸し暑さもなんのその、往来でこうまでくっついていることなど皆無だった二人にとって、酷くスリリングで胸がときめくひと時となった。 予想通り十数分で雨は弱まり、いよいよ止んでしまう頃、名残惜しげに傘の中でそっと唇を合わせた二人は、身体を離して傘を閉じる。 開けた視界の向こう側、エドガーとマッシュはまだ暗い空に大きく掛かる虹を見た。 「兄貴、ほら、虹だ」 「ああ、本当だ……、待てよ、二重になっているな。珍しい、ダブルレインボーか」 「ダブルレインボー?」 「滅多に見られない、幸せの予兆と言われている二重の虹だ。何か願い事でも叶うかもしれんぞ」 へえ、とグレイの空にかかる二つの虹を見上げたマッシュは、ふいに目を伏せて手を合わせた。 エドガーが目敏く視線を向ける。 「何をお願いしたんだ?」 「……もうちょっと雨が降りますようにって」 戯けた口調の願い事にエドガーは吹き出し、マッシュの肩に自分の肩をさり気なく寄せた。水溜まりがあちこちにできた道を、二人は同じ歩幅で歩く。 あの虹も双子かなあとのマッシュの呟きに、エドガーは七色の光に劣らぬ鮮やかな笑顔を向けた。 |