萌えシチュエーション15題より
「11.優しく頭を撫でられて」その2
(使用元:TOY様 http://toy.ohuda.com/)


 わたしは人である前に王である。

 王である以上、簡単に民に頭を下げてはならないのだと、先王である父から幼少時に教えを受けた。
 たとえ過ちを犯したとしても、頭を垂れてはならない時がある。王の頭は軽々しく振るものではない。前を見据え不動たれ、誠意は行動で示すのだ。
 父は決して民を圧する君主ではなかった。何処か飄々とした明るい態度は気さくささえ感じられて、民にとっては統治者の割に距離の近い存在に感じられただろう。
 その父が頭を下げる姿は確かに覚えがない。跪いたのはお前たちの母にプロポーズをした時くらいだな、と笑った父の目尻の皺をぼんやりと思い出す。
 愛しいものの前では王の威光は無力なのだ──そう言って、父は幼い私と弟に目線を合わせるために膝をついた。


 今、私はベッドの上で膝をついて、四つん這いにも似た格好で聳り立つ男根の根元を握り、先端から中ほどまでを口の中に含んでいる。
 時に喉奥まで飲み下すように深く咥え込んで咽せ、べろりと広げた舌を肉壁に這わせて犬のように荒い息と唾液を垂れ流しながら、熱く青臭いものを口内で丹念に愛撫し続けている。
 両膝を緩く曲げて投げ出された筋肉質な脚の間に収まって、口のみならず頭ごと上下させて硬く脈打つものを必死に舐め上げる。唇も舌も上顎も全てを駆使して、このまるで意思を持った生き物のようなものを満足させるべくひたすらに奉仕を続けた。
 はあ、と湿度の高い溜息が頭上から聞こえてくる。それとほぼ同時に厚みのある手がふんわり頭の上に乗せられて、穏やかな手つきで私の頭髪をゆっくりと撫でた。
「……上手になったね、兄貴」
 ほとんど吐息に等しい低い声が聴覚を刺激する。併せて、解いた私の長い髪を後頭部からうなじに向かって優しく撫でる手が、そのまま背中から腰、双丘の始点まで滑り降りる錯覚に襲われて肌がぞわっと総毛立った。
 下肢に痺れるようなむず痒さを感じ、思わず両腿を内側に寄せて後孔をキュウと締める。今、甘やかに頭を撫でているその無骨な指が、悩ましく窄んだ場所を抉じ開けてくれることを期待して。
 腹の下では欲望に忠実な自分の分身が、本体とは裏腹に頭を擡げて先端をほんのり濡らしている。
 優しい指と手のひらが頭を撫でるたび、口内に余る猛ったもので早くこの身を貫いて欲しくて無意識に腰を揺らす。
 下げてはいけない頭を愛しい男の下半身に埋め、浅ましく喘いでいるこの姿は、一体どんな眼差しで見下ろされているのか。
 低く静かな声に滲む暖かさは、決して他の人間が覗くことのできない旋毛を見つめる澄んだ青い瞳にも宿っているのだろうか。
「……もう、いいよ。……おいで」
 ふと、頭を撫でていた手が動きを止めた。
 そのまま肩へと下りた手のひらから伝わる熱に胸がギュウと音を立て、私は恐々と、縋るような目でそっと頭を持ち上げる。
 見上げた先の存在に、身も心も支配される悦びに震えながら。

 わたしは王でありながら、恋と欲に溺れる凡人でもある。

(2018.08.20)